第十六話:反発と畏敬
地獄の軍隊調練が始まってから、数日が過ぎました。
当初、兵士たちの間には、不満と、反発の空気が渦巻いておりました。
「やってられるか! あれは、訓練じゃない、ただの拷問だ!」
「なぜ、俺たちが、あんな小娘の、気まぐれに付き合わされなきゃならんのだ!」
これまで、実戦と、剣の腕だけを信じてきた、屈強な男たち。彼らにとって、わたくしが課す、基礎体力向上のみに特化した、あまりに地味で、過酷なトレーニングは、理解の範疇を超えていたのでしょう。
兵士たちの士気は、日に日に、低下していきました。
ですが、わたくしは、そんな彼らの不満など、一切、意に介しませんでした。
わたくしは、ただ、黙って、行動で、範を示し続けたのです。
兵士たちに、腹筋千回を命じれば、わたくしは、その隣で、三千回の腹筋をこなす。
兵士たちに、城壁を十周走らせれば、わたくしは、彼らの倍の重さの鎧を身につけ、二十周を走り切る。
兵士たちが、悲鳴を上げ、地面に倒れ伏していく中、わたくしは、ただ一人、涼しい顔で、汗一つかかずに、全てのメニューを、彼らの、三倍以上の強度で、完璧にこなしてみせる。
その、あまりに、人間離れした光景を、毎日、毎日、見せつけられるうちに。
兵士たちの間に渦巻いていた、反発の空気は、徐々に、別の感情へと、変わっていきました。
ある日の午後。その日の最後のメニュー、巨大な丸太を担いでのスクワット五百回を終え、兵士たちが、屍のように、練兵場に転がっていた時のことでした。
わたくしは、息一つ乱すことなく、壇上に立つと、静かに、告げました。
「本日の訓練は、これで終了ですわ。皆々様、ご苦労様でした」
ですが、わたくしは、その場を立ち去りませんでした。
兵士たちが見つめる中、わたくしは、彼らが、十人がかりで、ようやく持ち上げていた、訓練用の、巨大な岩石(推定重量5トンア)の前へと、一人、進み出たのです。
「わたくしは、これから、自主トレーニングを始めますので、お気になさらず」
そう言うと、わたくしは、その巨大な岩石を、まるで、小石でも拾い上げるかのように、軽々と、頭上へと、持ち上げてみせました。
そして、それを、ダンベル代わりに、片手で、上下させ始めたのです。
練兵場に、完全な、沈黙が落ちました。
兵士たちは、もはや、声も出ない。ただ、目の前で繰り広げられる、神話の生き物のような、圧倒的な「力」の奔流を、呆然と、見つめるだけでした。
反発は、畏敬へと。
侮蔑は、恐怖と、そして、かすかな憧れへと。
彼らの心の中で、何かが、確実に、変わり始めた瞬間でした。
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