第十五話:地獄の軍隊調練、開始
父上から、ツェルバルク家の全権を委任された、その翌朝。
鉄砦城の、広大な練兵場には、我が家の誇る、全ての兵士たちが、整列しておりました。百戦錬磨の、屈強な男たち。その、鋼のような肉体と、鋭い眼光は、我がツェルバルク軍の、精強さの証です。
ですが、わたくしの目から見れば――彼らは、まるで、ひ弱な、生まれたての子鹿のようでした。
わたくしは、練兵場の壇上に立ち、彼らを見下ろしながら、マイクもなしに、しかし、練兵場の隅々にまで響き渡る、明瞭な声で、第一声を発しました。
「皆々様、おはようございます! 本日より、このわたくし、イザベラ・フォン・ツェルバルクが、あなた方の、新たな指揮官となります!」
兵士たちの間に、わずかな、どよめきが走ります。無理もありませんわ。昨日まで、王都でゴシップを振りまいていた令嬢が、突如として、自分たちの総司令官になったのですから。
「異論、反論は、一切、認めません。なぜなら、これは、世界の危機を救うための『聖戦』だからですわ。そして、その聖戦を戦い抜くにあたり、あなた方の、その肉体は、あまりにも、あまりにも、貧弱すぎます!」
わたくしの、その、あまりに率直な言葉に、兵士たちの顔が、侮辱と、怒りに、引きつっていくのが分かりました。ええ、ええ、その反骨精神、嫌いではありませんわ。
「これより、あなた方には、わたくしが考案した、全く新しい訓練プログラムを、受けていただきます。目的は、ただ一つ。あなた方、一人一人を、一騎当千の、歩く要塞へと、作り変えることですわ!」
そして、わたくしは、高らかに、宣言しました。
「これより、地獄の軍隊調練を、開始いたします!」
その日、鉄砦城の練兵場は、兵士たちの、阿鼻叫喚の地獄絵図と化しました。
わたくしが、最初に命じたのは、武器を構えることでも、馬に乗ることでもありません。
「まずは、腹筋からですわ! あなた方の、その、たるみきった腹直筋と、腹斜筋! それで、何が守れるというのですか! 全員、腹筋千回! 終わるまで、食事は抜きですわよ!」
わたくしの、怒号が、練兵場に響き渡ります。
これまでの、生ぬるい訓練しか知らなかった兵士たちは、次々と、地面に倒れ伏していく。
「立て! 立つんですの! 筋肉が、悲鳴を上げてからが、本当のトレーニングの始まりですわよ!」
わたくしは、自ら、寸分の狂いもない、完璧なフォームで、腹筋運動をこなしながら、彼らを、叱咤激励します。
それは、ツェルバルク軍の歴史上、最も過酷で、そして、最も、意味不明な訓練の、幕開けでした。
兵士たちは、まだ、知りませんでした。この地獄が、これから、毎日、夜が明ける前から、日が暮れるまで、続くということを。
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