第十話:【緊急メインクエスト】発動
御前試合での、あまりに完璧な勝利。
その夜、わたくしは、王城の自室で、極上の満足感に浸っておりました。ライネスティア家の陰謀は、わたくしの筋肉の前には無力。兄ヴォルフ様の名誉は守られ、民衆からのわたくしへの評価は、うなぎ登り。
(ふふん。完璧なクエストクリアですわ。これで、経験値も、名声値も、大幅にアップしたはず。王都編の攻略も、順調そのものですわね!)
わたくしは、褒賞としていただいた最高級のプロテインをシェイクしながら、上機嫌で一人祝杯をあげておりました。
窓の外では、わたくしの勝利を祝う花火が、夜空を美しく彩っています。
全てが、わたくしの、完璧なゲームプランの上で、進んでいる。そう、信じて疑わなかった、まさにその時でした。
突如として、わたくしの脳内に、今まで聞いたこともない、無機質なシステムメッセージが、直接、響き渡ったのです。
【――均衡精霊より、緊急通信。強制イベントを開始します――】
「なっ…!?」
わたくしが抗議する間もなく、世界から、音が消えました。
部屋の景色が、まるでノイズの走った映像のように、ぐにゃりと歪む。そして、わたくしの意識は、否応なく、暗く、冷たい空間へと、引きずり込まれていったのです。
それは、もはや、ただのイベントシーンではありませんでした。
わたくしの脳裏に、直接、叩きつけられた、おぞましい映像の奔流。
「最悪のバッドエンドルートのデモムービー」が、強制的に、再生され始めたのです。
舞台は、未来の、白氷城。
空は、不吉な紫色に染まり、大地は、生命の色を失っている。
そして、その、絶望的な世界の中心に、一人の、少女が立っていました。
セレスティーナ・フォン・ヴァイスハルト。
ですが、その姿は、わたくしが知る、あの気高い『氷の薔薇』ではありません。
銀色の髪は、輝きを失って、灰色に濁り、その月白色の瞳からは、全ての光が消え失せている。彼女は、もはや、人間ではなく、ただ、歩く災厄。
周囲のエーテルとマナの全てを、その身に収奪し続ける、神格実体 。
彼女が、ただ、そこに存在するだけで、世界が死んでいく。
足元の草花は、一瞬で水分を失って黒い塵と化し、大地はひび割れ、城壁の石材から魔力が抜かれ、脆く崩れ落ちていく。
そして、最もおぞましかったのは、人々への影響でした。
彼女の周囲にいた兵士たちが、次々と膝から崩れ落ちる。彼らは、苦悶の表情で自らの胸をかきむしり、その体は急速に生命力を奪われ、まるで干からびるように萎んでいく。
周囲の生命体全てがマナを奪われ、衰弱死していく のです。悲鳴を上げる力すら、残されてはいない。
それは、わたくしが、これまでプレイしてきた、どんなゲームの、どんな絶望的なエンディングよりも、遥かに、おぞましく、そして、救いのない光景でした。
わたくしは、ただ、そのデモムービーを、見せつけられることしかできません。
そして、映像は、わたくしにとって、最も、耐え難いシーンを、映し出したのです。
ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。
次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。
活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話を更新しています。(Xアカウント:@tukimatirefrain)




