第九話:氷の薔薇(ライバル)との再会
闘技場を揺るがす、万雷の喝采。
わたくしは、その歓声の嵐の中心で、誇らしく胸を張っておりました。兄の名誉を汚した、見えない悪意。それを、わたくしは、わたくしだけのやり方で、完全に、粉砕してみせたのです。
(ふふん。どうです、ライネスティア家! これが、筋肉ですわ! これが、ツェルバルク家の誇りですのよ!)
満足感に浸りながら、わたくしは、貴賓席にいるであろう、敵の悔しがる顔を拝見しようと、そちらに視線を向けました。
ですが、その瞬間。わたくしの目は、ライネスティア家の者たちではなく、天媒院で幾度となく火花を散らしてきた、宿敵の姿に、釘付けになったのです。
熱狂と興奮に満ちた観客席の、その片隅で。
ただ一人、まるで、そこだけ時間が止まっているかのように、彼女は、静かに立っておりました。
月の光を溶かし込んだような、美しい銀色の髪。誰の熱も通さない、氷のような、月白色の瞳。
周囲の喧騒など、まるで存在しないかのように、彼女は、ただ、この闘技場の光景を、冷静に、分析するかのように見つめています。
(いましたわね…ヴァイスハルト家の『氷の薔薇』!)
セレスティーナ・フォン・ヴァイスハルト。
武勇を誇る我がツェルバルク家と、常に、対立してきた、知略と魔法の名門、ヴァイスハルト家の、次期当主。
天媒院では、わたくしの情熱的なアプローチを、いつも氷の仮面で受け流す、実に好敵手らしい、好敵手。
(なるほど、なるほど! この「王都編」でも、やはり、わたくしの前に立ちはだかるのは、あなたですのね!)
わたくしは、一方的に、闘志を燃やしました。
そうですわ、乙女ゲームには、必ず、強力なライバル令嬢が登場するもの。このステージにおける、わたくしのメインライバルは、彼女に違いありません!
銀髪…おそらく、氷系統の強力な魔法の使い手。あの冷静さは、高い精神抵抗を持っている証拠。わたくしのような、物理攻撃とは、正反対のタイプ。実に、実に、王道なライバル設定ではありませんか!
わたくしが、灼熱の視線を送っていることに気づいたのか、セレスティーナ様が、ふと、こちらに視線を向けました。
一瞬だけ、私たちの視線が、交錯する。
彼女の、その、温度のない瞳。わたくしは、その視線を、好敵手からの、無言の宣戦布告と、受け取りました。
よろしいでしょう、セレスティーナ・フォン・ヴァイスハルト様。
天媒院の論文会とやらで、知恵比べをするのも良いですが、いずれ、必ず、あなたのその氷の魔法と、わたくしのこの灼熱の筋肉、どちらが上か、白黒つけさせていただきますわ!
わたくしは、彼女にだけ分かるように、そっと、力こぶを作って、見せつけました。
彼女は、その、あまりに意味不明な挑発に、ほんの少しだけ、眉をひそめると、ふい、と興味を失ったように、視線を逸らしてしまいました。
ふふん。今のうちに、そうして、冷静を装っているとよろしいですわ。
わたくしの、次なる目標は、あなたに決まりましたので!
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