第四十五話:ヒロインの絶体絶命
「全軍、わたくしに続け!目標、正面の大型魔獣!一気に畳み掛けますわよ!」
わたくしは、敗走していく他の生徒たちを背に、チームの仲間へと檄を飛ばしました。さあ、ここからが本番。わたくしの、わたくしたちだけの、ボスレイドの始まりですわ!
わたくしは大地を蹴り、弾丸のようにグリフォンへと肉薄しました。狙うは、その逞しい前脚!まずは機動力を奪い、動きを止めるのが定石ですわ!
「うおおおおおっ!」
わたくしは、鍛え上げた全身のバネを使い、渾身の力を込めて大戦斧を横薙ぎに振るいました。並の魔獣であれば、その脚を骨ごと粉砕するほどの完璧な一撃。
ですが――!
ガギィィィン!という甲高い金属音と共に、わたくしの斧は、グリフォンの体表を覆う混沌のオーラによって、いともたやすく弾かれてしまいました。
「なっ…!?」
わたくしの一撃が、ほとんど通じていない。その事実に一瞬だけ驚愕するわたくしに、グリフォンは、まるで鬱陶しい虫を払うかのように、その巨大な鉤爪を振るいました。
一太刀切り結んだだけで、わかりました。
それは、直接わたくしを狙ったものではありませんでした。ですが、その一振りによって生じた暴風が、わたくしたちのチームを襲います。
「散開!」
わたくしの声に、リョーコ殿たちが素早く反応し、衝撃を散らすように飛びのきました。ですが、ただ一人、後方で支援に徹していたエリアーナだけが、その圧倒的な風圧に耐えきれず、きゃっ、という悲鳴と共に、その場に倒れ込んでしまったのです。
まずい、と思いましたわ。
グリフォンは、その冷酷な視線を、最も弱く、無防備な獲物――エリアーナへと向けました。
(守らなければ!)
わたくしが駆け出そうとした、その時。わたくしよりも速く、一つの人影がエリアーナの前へと飛び出しました。
「エリアーナ嬢!大丈夫か!」
エドワード王子殿下でした。彼は、完全に撤退してはいなかったのです。他の生徒の避難を助けていたのでしょう。彼は、震えるエリアーナを背中に庇い、グリフォンに向かって、その剣の切っ先をまっすぐに向けました。
「殿下…!」
「下がりなさい!ここは私が!」
ああ、なんてことでしょう。乙女ゲームで幾度となく見た、ヒーローがヒロインを守る、王道のイベントシーン。ですが、相手が悪すぎますわ!
グリフォンは、目の前に現れた新たな獲物をせせら笑うかのように、その口を大きく開きました。そして、放たれたのは炎でもなければ、氷でもない。空間そのものを震わせる、混沌の咆哮。
轟音と共に、王子とエリアーナの背後にあった遺跡のがれきの山が崩れ落ち、彼らの退路を完全に塞いでしまいました。
逃げ場を失い、孤立する二人。そして、ゆっくりと、しかし確実に、その距離を詰めていく伝説の魔獣。
それは、絶体絶命という言葉が、あまりにも生ぬるく聞こえるほどの、破滅的な光景でした。
わたくしの「保護対象」であるヒロインと、このゲームの最重要攻略対象である王子様が、同時に消滅しかねない。
それは、すなわち――最悪の「ゲームオーバー」を意味していました。
わたくしの脳から、先ほどまでの高揚感が、急速に消え失せていきます。代わりに、背筋を、氷のような、冷たい怒りが駆け上りました。
(…許しませんわ)
わたくしのパーティーメンバーに手を出したこと。
そして、このわたくしの完璧なゲームプランを、台無しにしようとしていること。
(絶対に、許しませんわよ、このクソ鳥…!)
わたくしは、大戦斧を握る手に、今度こそ、本当の「意志」を込めたのでした。
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