第四十四話:嵐の遭遇
「全力前進ですわ!」
わたくしの号令一下、チーム・イザベラは、咆哮が聞こえた方向へと、森の中を突き進んでおりました。やがて、木々が途切れ、目の前に開けたのは、古びた石材が散乱する広大な空間――わたくしが先日、「攻略本」を入手した、あの古代遺跡の中心部でした。
ですが、その光景は、わたくしが知る静かな遺跡とは、あまりにもかけ離れておりました。
遺跡の中央、かつて祭壇があった場所は巨大なクレーターのように陥没し、そこから、天を衝くほどの巨体を持つ魔獣が、その威容を現していたのです。
黄金の鷲の頭と翼、そして、白銀の獅子の胴体。その体からは、まるで陽炎のように、空間を歪ませるほどの混沌としたエーテルが立ち上っている。
「グリフォン…??」
誰かがそう呟きましたわ。
しかし、その禍々しい姿は、わたくしの伝え聞く、それとは全く異なっている。
そして、その周囲には、既に地獄のような光景が広がっておりました。
わたくしたちよりも先に駆けつけていたであろう、いくつかの生徒チームが、グリフォンの圧倒的な力の前に、なすすべもなく打ちのめされていたのです。
「凍晶よ、穿て! Crystallus・In…Hold…Out!」
「灼閃、驟雨と為れ! Ignis・In…Hold…Out!」
生徒たちが、環流マナ術の循環詠で必死に魔法を放ちます 。ですが、そのいずれの魔法も、グリフォンに届く前に、その巨体から放たれる圧倒的なエーテルの圧力によって、術者の環流そのものが乱され、霧散してしまいます 。中には、術の逆流障害によって、小さく吐血する生徒すらおりました 。屈強な騎士科の生徒が振るう剣は、その鋼の羽毛に弾かれ、赤子を相手にするかのように、いともたやすく吹き飛ばされる。
「くそっ、攻撃が全く通じん!」
「だめだ、撤退しろ!」
学園の教官たちが放つ、より複雑な循環詠による上位魔法ですら、この伝説の魔獣には、ほとんど効果がないようでした。
グリフォンは、そんな人間たちの抵抗を嘲笑うかのように、ゆっくりと、その巨大な翼を広げました。
ただ、一度、力強く羽ばたいただけ。
それだけで、凄まじい衝撃波が発生し、周囲の木々をなぎ倒し、生徒たちの防御魔法陣を紙切れのように引き裂いていきます。
「うわあああっ!」
「もうだめだ、逃げろ!」
恐慌状態に陥った生徒たちが、次々と戦線を離脱し、森の奥へと敗走していく。
教官の一人が、苦渋の決断を下しました。
「全チームに告ぐ!現時刻をもって演習は中止!これは訓練ではない、実戦だ!生存者はただちにこの場から撤退せよ!」
その命令が、この戦いの絶望的な結末を、決定づけました。
エリアーナは腰を抜かし、クレメンティーナとダフネも、血の気の引いた顔で立ち尽くす。リョーコ殿ですら、その額に汗を浮かべ、静かに武器を握りしめている。
誰もが、この圧倒的な「嵐」を前に、逃げることしか考えられない。
そんな中、わたくしは――歓喜に打ち震えておりました。
(素晴らしい…!これですわ!これこそが、わたくしが求めていた、骨の髄まで楽しませてくれる、最高の相手ですわ!)
皆が背を向けて逃げ惑う中、わたくしは、ただ一人。
その嵐に向かって、一歩、また一歩と、足を踏み出しました。
そして、大戦斧を担ぎ直し、その切っ先を、天に座す混沌の王へと、まっすぐに向けたのです。
「――さあ、始めましょうか。雌雄を決する、本当の『演習』を」
敗走していく者たちの喧騒を背に、わたくしたちチーム・イザベラだけが、その場に、仁王立ちになっておりました。
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