第三十六話:仕組まれた盤上遊戯
王都で全ての点が線となり、ヴァレリウスという黒幕の存在が白日の下に晒されたという報せは、すぐにドルム・ガンドにいるわたくしの元にも届けられました。
兄様からの緊急の魔導通信でしたわ。その声は長年の胃痛から解放された安堵と、巨悪の正体を掴んだという興奮に打ち震えておりました。
(ふふん。やりますわね、兄様たちも)
わたくしは満足げに頷きました。
これで敵の正体は割れた。あとはこのまま王都へと凱旋し、ヴァルシェード家へと正面から筋肉による最終通告を叩きつければ、このメインクエストも完全クリア。そう、思っておりましたのに。
ですが、あのヴァレリウスという男はわたくしが想像していた以上に狡猾で、そしてしぶといラスボスでしたわ。
兄様からの次の一報は、わたくしのそのあまりに楽観的なゲームプランを根底から覆すものでした。
『――イザベラ、聞け!追い詰められたヴァレリウスがとんでもない手を打ってきた!』
なんと彼は陰謀を暴かれたにも関わらず、一切動じなかったのです。
それどころか逆に国王陛下と貴族議会に対し、こう嘯いたのです!
「皆様、どうか冷静にお聞きいただきたい。今、我が国は外なる脅威ではなく、内にいるあまりに強大すぎる『英雄』によって危機に瀕しているのかもしれない、と」
彼はまず、わたくしの功績を賞賛してみせました。
「『赤き戦姫』イザベラ嬢の活躍は誠に目覚ましい。ですが皆様、お忘れか?彼女の一連の行動は、その全てが国王陛下の勅命も貴族議会の承認も得ずに行われた独断専行であるということを!」
「許可なく軍を動かし、同盟国とはいえ他国の内政に深く干渉する。その『力』は果たして本当に王国のためのものなのか?あるいはツェルバルク家という一つの家の栄達のために振わ-れているのではないか?」
「私は国を憂う者として、そのあまりに危険な力の暴走を密かに調査していたに過ぎぬ!」
そしてその上で、彼はこう提言したという。
「もはや言葉だけでは、どちらが真の愛国者か決められぬでしょう。ならば開くべきです。全ての当事者を集めた緊急のサミットを。そこで民衆が見守る中、全ての真実を明らかにしようではございませんか」と。
そのあまりに大胆不敵で、あまりに白々しい提案。
開催地として指定されたのは、彼の庭とも言える『自由都市リューン』。
兄様は「罠だ!断じて乗ってはならん!」と叫んでおりました。
ええ、ええ。分かっておりますわ。もちろん、分かっておりますとも。
ですがこの提案、わたくしは乗らざるを得ませんでした。
(やられましたわね…)
ヴァレリウスはわたくしが御前試合や鉱山での救出活動で手に入れた、「民衆の英雄」というこの『赤き戦姫』の名声を逆手に取ってきたのです。
彼が仕掛けたのは物理的な罠ではない。わたくしの「誇り」と「評判」を人質にした悪質な盤上遊戯。
このサミットからもしわたくしが逃げれば、どうなるか。
民衆はこう思うでしょう。「赤き戦姫も結局は、己の保身しか考えぬただの貴族だったのか」と。
わたくしが筋肉で、汗で、そして時には血を流してまで証明してみせたツェルバルク家の正義。その全てがただの「茶番」として地に落ちてしまう。
(強制イベントの発生ですわね)
わたくしのゲーマーとしての魂が警鐘を鳴らしております。
断るという選択肢はございません。
ここで逃げれば、それはわたくしの、そしてツェルバルク家の完全な敗北を意味するのですから。
わたくしは通信機の向こうの兄様に向かって、静かに、しかし力強く告げました。
「兄様。その挑戦、受けて立ちましょう」
「イザベラ!?」
「罠だと知っておりますわ。ですが、だからこそ行くのです」
わたくしの瞳には一点の迷いもございませんでした。
「わたくしの正義を疑うというのなら、その舞台の上で再び証明してさしあげるまでですわ」
わたくしは通信を切ると、傍らで静かにその時を待っていた我が筋肉信者たちへと向き直りました。
その瞳には既に、次なる戦いへの歓喜の光が宿っております。
「お聞きなさい、我が使徒たちよ!」
わたくしは高らかに宣言いたしました。
「次なるトレーニングの舞台は決まりましたわ!目指すは自由都市リューン!最高の盤上遊戯の始まりですわよ!」
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