第三十四話:鉱脈を穿つ拳
あの、熱い「対話」を終え、玉座の間に戻ったわたくしたちを、二人の王は、もはや、対等な「戦士」として、迎え入れてくださいました。
彼らは、今度こそ、その、苦しい胸の内を、正直に、語ってくれたのです。
ヴァルシェード家と繋がる商会によって、武具生産に不可欠な魔法触媒の流通を、完全に止められてしまったこと。国中の、既知の鉱脈は、とうに掘り尽くされてしまったこと。そして、もはや、打つ手がない、という、絶望を。
わたくしは、そこで、エリアーナから託された、決定的な情報を、彼らに、提示いたしました。
「あなた方の流通を止めているのが、ヴァルシェード家と繋がる、特定の商会であることは、既に、調査済みですわ」
その言葉に、獣人の王が、牙を剥き出しにして、立ち上がりました。
「やはり、あの、海のハイエナどもか!ならば、話は早い!今すぐ、蒼波港に攻め入り、力ずくで、奪い返してくれる!」
ですが、その、荒ぶる彼を、ドワーフの王が、重い声で、制しました。
「…待て。それこそが、奴らの罠だ。我らが、武具も作れぬまま、内乱を起こせば、共倒れになるだけ。奴らは、我々が、何もできぬことを見越しているのだ…」
エリアーナがもたらした情報は、敵を明確にした一方で、彼らが、いかに、絶望的な袋小路に追い詰められているかを、浮き彫りにしただけでした。
その、あまりに、情けない、諦めの言葉。
わたくしは、心底、呆れて、深く、深いため息をつきました。
そして、その、絶望に沈む、二人の王に、絶対的な、真理を、告げて差し上げたのです。
「ないのなら、掘ればよろしいのですわ!」
その、あまりに単純明快な提案に、玉座の間が、静まり返りました。
「…馬鹿を言うな」
ドワーフの王が、絞り出すように、言います。
「残されているのは、あまりの危険さに、数百年前に封鎖された、旧鉱脈だけ。その、最深部を塞ぐ岩盤は、古代の魔法で硬化され、我が祖先の、いかなるルーンの秘術をもってしても、傷一つ、つけられなかったのだぞ!」
わたくしは、その言葉を、遮りました。
「技術、ですって?結構ですわ。そのような、小細工は、不要ですのよ」
わたくしは、その場で、踵を返すと、玉座の間を、後にしました。
兄ヴォルフ様が、わたくしの腕を掴みます。
「待て、イザベラ!無茶だ!」
「無茶ではございませんわ、兄様。最高の、トレーニングですのよ」
ドワーフの王が、信じられぬ、といった顔で、立ち上がりました。
「…よかろう。その、戯言の、結末、この目で、見届けてくれるわ。ツェルバルクの誇りが、我が祖先の絶望の前に、いかにして砕け散るかをな!」
封鎖された、旧鉱脈の入り口。そこに、古代魔法で硬化されたという、絶望の岩盤が、鎮座しておりました。
わたくしは、まず、その岩盤を、拳で、軽く、叩いてみる。ゴッ、という、鈍い音。わたくしの拳が、わずかに、痺れました。
(…ほう。これは、骨が折れますわね…!)
「さあ、始めましょうか!全身の筋肉を、極限まで追い込む、最高の、掘削トレーニングを!」
わたくしの号令一下、始まったのは、もはや、採掘と呼べるような、生易しいものでは、ございませんでした。
わたくしたちの、鋼鉄の拳が、岩盤へと、叩き込まれる!
ですが、岩盤は、びくともしない。むしろ、打ち付けた、兵士たちの拳から、血が滲み始めました。
ドワーフの王が、その光景を、冷ややかに、見つめている。
ですが、わたくしたちは、諦めません。
「リズムを合わせなさい!わたくしの、心音を聞くのです!一点に、全ての、魂を、集中させる!」
わたくしたちの、心臓の鼓動が、一つの、巨大な、槌音となって、シンクロしていく。
「「「ハイル・マッスル!!」」」
その、掛け声と共に、百を超える、鋼の拳が、岩盤の、ただ、一点へと、叩き込まれました。
ピシッ、という、微かな音。
数百年、誰も、傷つけられなかった、その、絶望の壁に、初めて、一本の、亀裂が、走ったのです。
ドワーフの王が、息を呑むのが、分かりました。
「行きますわよ!」
最後の一撃。わたくしの拳が、その亀裂の中心を、貫いた、その瞬間。
凄まじい、轟音と共に、絶望の岩盤は、木っ端微塵に、砕け散りました。
そして、その向こうには、壁一面が、瑠璃色の、美しい光を放つ、巨大な空洞が、その姿を現したのです。
わたくしが、探し求めていた、魔法触媒の、全く新しい、巨大な鉱床。
ドワーフの王は、その光景に、ただ、呆然と、立ち尽くし、やがて、その場に、ひざまずきました。
わたくしは、そんな彼に、振り返り、にやり、と笑ってみせたのです。
「さあ、王よ。これで、あなたの誇りである、炉に、再び、火を入れる、準備が、整いましたわね。そして、エリアーナからの情報で、その、新しく鍛えた鋼を、どこの誰に、向けるべきかも、お分かりでしょう?」
同盟は、今、ここに、ただの紙切れの約束ではなく、筋肉と、汗と、そして、明確な、反撃の意志によって、再締結されたのでございます!
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