第二十六話:筋肉外交使節団、結成!
神託を受領した翌朝。王城が、いまだ昨夜の統制塔の異常光の混乱から抜け出せずにいる中、わたくしは、ただ一人、迷いなき足取りで、国王陛下の謁見の間へと向かっておりました。
すれ違う貴族や文官たちが、わたくしの、その、あまりに落ち着き払った、それでいて、ただならぬ覇気を放つ姿に、ぎょっとして道を開けます。ええ、ええ。分かりますわ。世界の危機を前にして、うろたえているだけの、あなた方とは、覚悟の量が違いますもの。
「国王陛下に、緊急の奏上!『赤き戦姫』イザベラ・フォン・ツェルバルク、ただいま、罷り越しました!」
わたくしは、衛兵の制止を、その気迫だけで振り払い、玉座に座す国王陛下の前に、まっすぐに進み出ました。
その場にいた、兄ヴォルフ様や、エドワード殿下が、わたくしの、その、あまりに無謀な行動に、息を呑むのが分かりました。
「ほう。して、戦姫よ。その方、朝から、随分と、威勢が良いではないか」
国王陛下は、興味深そうに、その顎鬚を撫でております。
わたくしは、その場で、深々と、しかし、堂々と、お辞儀をすると、単刀直入に、本題を切り出しました。
「陛下。エルフの森を蝕む病と、それに伴う霊脈の乱れ。もはや、一刻の猶予もございませんわ」
「うむ。して、そなたに、何か、策があると申すか」
「策、というほどの、回りくどいものでは、ございません」
わたくしは、顔を上げ、きっぱりと、言い放ちました。
「世界の危機を救うには、まず、外交ですわ!」
その、あまりに真っ当な言葉に、謁見の間が、わずかに、安堵の空気に包まれる。兄様が、ほっと、胸を撫で下ろす気配がいたしました。
ですが、わたくしは、続けました。
「――筋肉による、外交ですわッ!」
その一言で、安堵の空気は、一瞬にして、凍りつきました。
兄様が、静かに、天を仰ぐ。
「お考えください、陛下!ドルヴァーン家による、言葉だけの、ひ弱な交渉は、既に、失敗しております!森に閉じこもる、頑固なエルフたちに、我々の、真の『誠意』を伝えるには、もはや、言葉は、無力!」
「我々が、示すべきは、この国が、どれほどの『力』を持ち、その力を、決して、破壊のためではなく、彼らを救うためだけに、振るう用意があるという、揺るぎない、意志!すなわち、この、完璧に鍛え上げられた、肉体の説得力なのです!」
わたくしは、自らの、たくましい力こぶを、高々と、掲げてみせました。
「これこそが、国境を越え、種族を超え、魂に直接語りかける、究極の外交術!わたくしは、この『筋肉』をもって、エルフたちの、その、固く閉ざされた心の扉を、こじ開けてご覧にいれますわ!」
わたくしの、その、あまりに完璧で、揺るぎない、脳筋理論。
謁見の間は、水を打ったように、静まり返っております。
その、沈黙を破ったのは、エドワード殿下でした。
「素晴らしい…!素晴らしい考えだ、イザベラ!」
彼は、瞳をキラキラと輝かせ、一歩、前に進み出ました。
「陛下!どうか、ご裁可を!そして、その、あまりに気高い任務、このエドワードも、是非、同行させてください!イザベラと共に、この国の誠意を、示させてはいただけませんか!」
その、使命感に燃える、王子の、あまりに純粋な声。
国王陛下は、最初、呆気に取られておりましたが、やがて、いつぞやの如く、その口元に、珍しい昆虫を見つけた子供のような、無邪気で、しかし、不敵な笑みを、浮かべました。
「…くくっ。…あはははは!面白い!実に、面白いではないか、ツェルバルクの娘よ!」
陛下は、腹を抱えて、笑っておられる。
「よかろう!その、前代未聞の、『筋肉外交』、この、余が、承認する!」
そして、陛下は、謁見の間の隅で、胃のあたりを押さえ、顔面蒼白で、壁に寄りかかっている、わたくしの兄を、指差しました。
「ただし、条件がある。ツェルバルク家の当主代理として、兄である、ヴォルフガング。お主も、同行し、この、馬鹿げた…いや、気高き使節団を、監督せよ」
その、あまりに、無慈悲な、王の勅命。
兄ヴォルフの顔が、絶望に、歪むのを、わたくしは、確かに、見届けました。
ええ、ええ。こうして、わたくしの、輝かしい「筋肉外交使節団」は、今、ここに、結成されたのでございます!
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