第二十四話:王都上空の不吉な兆し
あの日、ドルヴァーン家の伝令騎士がもたらした凶報は、王都を包む熱狂的な筋肉のムーブメントに、冷水を浴びせかけるには十分すぎるものでした。
貴族たちの間では、にわかに「エルフの森の病」と「霊脈の乱れ」についての不穏な噂が囁かれ始め、あれほど活気に満ちていた王宮ジムも、どこか落ち着かない空気に満ちております。
ですが、わたくしは、むしろ、この緊張感を歓迎しておりました。
ええ、ええ。平穏な日常パートが長すぎると、プレイヤーは飽きてしまいますからね。適度な緊張感と、次なる展開への布石。実に、よくできたゲームシナリオですわ。
わたくしが、王城のバルコニーから、そんなことを考えて眼下の王都を眺めておりますと、隣で同じく空を見上げていたエドワード殿下が、重い口を開きました。
「ライネスティア家の魔導技師たちが、総出で霊脈の観測にあたっているそうだ。だが、原因が全く特定できんらしい。まるで、世界の血管が、内側から詰まっていくような、悪質な症状だと…」
彼の顔には、一国の王子としての、深い憂いの色が浮かんでおります。
その、時でした。
わたくしの脳内に、あの、白氷城での悪夢を告げた時と同じ、無機質なシステムメッセージが、直接、響き渡ったのです。
【――均衡精霊より、警告。ワールドイベントの発生を検知――】
「…っ!」
わたくしは、思わず息を呑みました。
その声と、ほぼ同時に。
ゴオオォォン…という、低く、不快な唸りが、王都の、まさに中心から響き渡ったのです。
わたくしとエドワード殿下の視線が、同時に、その場所へと向けられました。
王都白銀城の中心に、天を衝くようにそびえ立つ、巨大な塔。
この国の、いえ、この世界の環流マナ術の全てを管理・制御する、秩序の象徴――『環流統制塔』。
その、いつもは青白い清浄な光を放っているはずの塔が、今、まるで、巨大な心臓が不規則に脈打つかのように、禍々しい光を、明滅させていたのです。
やがて、その明滅は、一つの色へと収束していきました。
それは、空が嵐を呼ぶ前の、あの、不吉な紫色。
「馬鹿な…統制塔が…!?」
エドワード殿下が、絶句する。
眼下の王都が、一瞬にして、パニックの坩堝と化していくのが、手に取るように分かりました。人々が空を指差し、悲鳴を上げ、右往左往している。
統制塔から放たれる紫色の光は、ただの色ではございません。それは、霊脈そのものが、深刻なダメージを受け、悲鳴を上げていることの、何よりの証拠 。この王都の、秩序と平穏が、今、まさに、根底から覆されようとしている、破滅の狼煙でした。
わたくしの脳裏で、冷たい声が、続きます。
【――世界の霊脈に、深刻なダメージを確認。メインシナリオを、次のフェーズに移行します――】
わたくしは、隣で顔を蒼白にさせている王子には気づかぬまま、ただ一人、不敵な笑みを浮かべておりました。
さあ、始まりましたわね。この、世界の存亡を懸けた、本当のゲームが。
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