11-3
「……そんなにアベルがいいのか。リリアーヌ、急にどうしてしまったんだ? つい数ヶ月前までは、アベルがいくら君に言い寄っても全く取り合わなかったのに」
「どうしたというか……、心境の変化ですわね」
「だからどうしてそんな急に心境の変化なんて。前回のテストの後もアベルとシャリルの市場へ出かけたのだろう? 今までの君はアベルに対して素っ気なかったし、一般市民が利用する市場なんて全く興味を示さなかったじゃないか」
「そうですわね……。庶民の市場も見てみたら案外おもしろかったですわ。以前の私は視野が狭かったのですね。今回もテストが終わった記念にまたどこかへ出かけようと話しているんですけど、また市場に行くのもいいかもしれないと思っているくらいです」
「え?」
私が答えると、ジェラール様はなぜか打ちのめされたような顔をする。
「またアベルと出かける予定なのか?」
「ええ、さっき約束しましたの」
「そ、そんなきっぱりと……。君の婚約者はアベルでなく私だろう?」
ジェラール様はなんだか焦った様子で言う。
私は不思議に思いながらも答えた。
「そうですけれど……。ジェラール様、前に私がテストが終わったので一緒にどこかへ行きませんかとお誘いしたら、迷う素振りもなく断ってきたじゃないですか。『私は君と違って忙しいから無理だ。別の人を当たってくれ』なんてきっぱり言われたのを覚えていますわ」
前世の記憶を思い出す前のこと。
リリアーヌは隙あらばジェラール様を連れ出そうとしていた。テスト後なんて、毎回のように一緒にお疲れ様会をしましょうと誘っていた記憶があるけれど、ジェラール様には毎回すげなく断られていた。
現在の私は、あの時ジェラール様の言った言葉通りに、別の人と出かけているだけなのだけれど。
私の言葉を聞いたジェラール様は、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……そういえばそうだったな。悪かった、あの時のことは謝罪する」
「いえ、謝らなくて結構ですわ。私もうっとうしかったでしょうしね」
「リリアーヌ」
ジェラール様は、突然真剣な顔で私の目を見つめてきた。それからどこか緊張したような固い声で言う。
「リリアーヌ、私とも一緒に出かけてくれないか」
「え?」
突然のお誘いに目を白黒させてしまう。一体どういう風の吹き回しなのだろう。
「え、いや。気を遣わなくて結構ですわよ?」
「気を遣っているわけではない。君と出かけたいだけだ。それに、たまには婚約者同士で仲睦まじい姿を国民に見せておかないと、いらぬ憶測を呼ぶ心配があるだろう」
「そんなに気にする必要はないと思いますが……」
幼い頃に婚約してから今日まで、そんなことを気にして行動したことはないのだから今さらな気がする。
というか、私としては仮に国民からジェラール様と不仲だと思われても構わないのだ。
私の目標は、ジェラール様と婚約解消して、シャリエ公爵家を継ぐことなんだから。
どう断ろうかと考えあぐねていると、ジェラール様に手をぎゅっと握りしめられる。




