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「リリアーヌ、何なのあの子! 何とかしてよ!!」
「私に言われても困りますわ」
ある時私が廊下を歩いていると、ステラから隠れるようにこちらへやって来たアベル様が涙目でそんなことを言ってきた。
何とかしてと言われても、私にできることなんて思いつかない。
「王族命令でステラさんに接近禁止の命を出してはいかがですか」
「そんな権力を乱用するような真似、父上に許してもらえないよ! ただ付き纏ってくるだけで大きな被害はないし……。いっそ何か具体的な危害でも加えてくれば対処できるのに……」
アベル様は頭を抱えながら言う。
確かにステラの行動には実害があるわけではないので、余計に対処が難しい。
その上、周りも問題視していないのだ。
第二王子殿下に一女生徒が付き纏うことに眉を顰める生徒もいるにはいる。リリアーヌの取り巻きのニノンとオデットなんて、ステラがアベル様に話しかけるのを見る度に、重罪人でも見るような顔で悪口を言い合っている。
しかし、気に留めない生徒の方が圧倒的に多かった。
それと言うのも、ステラの纏うオーラが圧倒的に可憐かつ儚げなので、傍から見ると付き纏っている雰囲気がまるでしないのだ。
なんというか、か弱い少女が王子殿下に近づくために、健気に努力しているいじらしさまで感じさせる。
彼女を応援する声もちらほら聞こえてくるくらいだ。
「本当になんなんだ……。最初は兄上と仲良くなりたそうにしていたのに……」
アベル様はげんなりした顔で言う。
確かにそれは私も不思議に思っていた。ステラはアベル様に接近し始めて以来、ジェラール様には全く近づかないのだ。
以前は夢見るような眼差しでうっとりとジェラール様を見つめていたのに、今は全く興味がないかのように、すれ違っても気に留めないでいる。
原作漫画では割と早い段階でジェラール様と恋に落ちていたはずなのに、今となってはそんな気配微塵も感じられない。
「アベル様も大変ですわね。ステラさんが早めに諦めてくれるよう願いながら耐えてくださいませ」
「リリアーヌ、言っておくけど僕はあの子に全く興味がないからね!? 僕はリリアーヌ一筋だし、将来は絶対リリアーヌと結婚する予定だから!」
「だから勝手に決めないでください」
私は悲壮な声で縋りついてくるアベル様を追い払いながら、ステラに思いを馳せていた。
ステラは一体、何を考えているのだろう。
原作漫画のステラも本当はこんな子だったのだろうか。漫画を読んでいるときは純粋無垢の可愛らしい少女だと思っていたのに。
いくら考えたところでステラの事情なんてわかるはずもなく、首を捻るしかなかった。




