3-1
前世の記憶を思い出してから、早一週間。
私はひたすら勉強に励む日々を送っていた。
「お嬢様、最近毎日机に向かわれてらっしゃいますね! 疲れないんですか?」
ワゴンで紅茶を運んできてくれた侍女のシルヴィが、にこにこ笑いながら言う。
「疲れるけれど、次のテストで十位以内に入らなければならないからがんばるわ」
「まぁ、なんて立派な……。でも、少し休憩されてはいかがですか? いつもみたいに商人を呼んで宝石を買いましょうよ。シルヴィはあれを見るのが好きなんです。綺麗ですもの」
シルヴィはポットの紅茶をカップに注ぎながら、明るい声で言う。
主が勉強中だというのに散財を勧めてくるなんて、なんて侍女なのだ。
私は呆れて言葉を返す。
「ああいう無駄遣いはもうやめたの。私はこれまでと違った人生を生きるんだから」
「前のままでもいいと思いますけれど……」
シルヴィは頬に手をあて、首を傾げた。
それではダメなのだ。
ジェラール様との婚約を解消して、ヒロインのステラが現れても決して危害を加えないようにしていれば、原作漫画のように没落することはないだろう。
けれど、顔と身分以外何のとりえもないわがままなリリアーヌのままでいたら、没落はしないまでもろくな未来が待っていないことは予想できる。
私は明るい未来を掴みたいのだ。
そう考えて決意を新たにしていると、部屋に従僕がやってきた。
シルヴィに続いてリリアーヌのお気に入りその2のこの従僕は、淡い色の金髪に明るい空色の目をした美青年だ。
子爵家の三男で、名前をレノーという。
両親に無理やり騎士団に入れられたものの訓練がハード過ぎてついていけなかったところを、リリアーヌに気に入られてシャリエ家の使用人になった。
「リリアーヌ様、ジェラール殿下がいらっしゃってますよ」
レノーはにこやかに言う。
私は驚きに目を見開いた。
「ジェラール様が?」
「はい、応接室にお通ししました」
爽やかな笑みを浮かべ、レノーは言った。
シルヴィが驚いた顔をして、「一体何しに来たんでしょうね!」と耳打ちしてくる。
私は突然やってきたジェラール様を不審に思いながらも、応接室に向かった。
応接室につくと、そこには本当にジェラール様がいた。
ソファに腰掛けていたジェラール様は、私が入ってきたのに気づくと、突き刺すような視線を向けてくる。
「ジェラール様……。本当にいらっしゃってたんですね」
「婚約者の家に来ては悪いか」
ジェラール様は素っ気ない調子で言う。




