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「それにしても、改めてみるとやたら広いわね。ここの校庭。さすが王立学園だわ」
サンドイッチの入ったバスケットを手に、きょろきょろ校庭を見渡す。
さすが王国中の貴族の子たちが集まる場所だけあって、王立学園は校庭も立派だった。大きな噴水や手入れの行き届いた花壇、森のような場所まである。
私は木陰にベンチがあるのを見つけ、そこに腰掛けた。
バスケットを開けて、サンドイッチを口に運ぶ。
「リリアーヌ、こんなところで一人で何してるの?」
サンドイッチをもぐもぐ食べていると、後ろから声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、桃色の柔らかそうな髪に、明るい緑色の目をした美少年が立っていた。
「アベル殿下。何って、昼食を食べているだけです」
「へー、いつもお昼は取り巻きの子たちと食堂にいるのに珍しい」
殿下は首を傾げて言う。
この人はアベル殿下。ジェラール様の弟で、この国の第二王子だ。
私より一歳年下の十五歳で、王立学園中等部に通っている。
兄のジェラール様とは外見から性格まで全く違っているので、知らない人が見たらお二人が兄弟だとは気づかないかもしれない。
冷たく整った顔立ちで、自分にも周りにも厳しいジェラール様に対し、中性的な甘い顔立ちで自由人なアベル様。
アベル様も非常に整った顔をしているけれど、リリアーヌの美しいもの好きセンサーには反応しなかったようで、リリアーヌは彼を苦手としていた。
「リリアーヌはみんなに嫌われてるもんね。わがまま言い過ぎてついに取り巻きの子たちにまで仲間外れにされたの?」
「違います。少し一人になりたかっただけです」
失礼なことを言う殿下に眉を顰める。
殿下は気の抜けた声で言った。
「なんだ。つまらない」
「つまらないとはなんですか。アベル様こそ、こんなところに一人でどうなさったんですか。仲間外れにでもされたんですか」
「違うよ。僕はリリアーヌと違って人気者だもん。少し用事があっただけ」
アベル様は澄ました顔で言う。
悔しいことに、この失礼な王子殿下は学園の生徒から大変な人気がある。
第二王子と言う立場に加え、中性的な美しい外見と自由奔放な性格。
リリアーヌと違い成績も優秀で、奔放な性格ながら人との距離を器用に測れる。
本人の言う通り、アベル様は学園中の生徒たちの人気者だった。
私は何となく気に入らない思いでアベル様を眺める。
「それでは、どうぞその用事をしに行ってください。私などに構わず」
「リリアーヌに用事があるんだよ。ねぇ、兄上と婚約破棄したって本当?」
アベル様は、ずいっとこちらに顔を近づけて尋ねてくる。
「もう聞いたんですか」
「もちろん。僕がリリアーヌに関する情報を知らないわけがないじゃないか。リリアーヌ、昨日兄上の教室まで行ってみんながいる前で婚約破棄宣言したんだってね。兄上はその場にいた生徒たちに口止めしたらしいけど、一部には噂が広まってるよ」
「まぁ、口止めなんてされていたんですね」
どうりで今日、教室で婚約解消については何も聞かれなかったわけだ。
私は静かに納得する。
しかし、アベル様の話しぶりが少し気になった。




