月見酒 (左遷された主 と 梅の精ウメ)
梅の精ウメの主は中央で働く役人だったが、才能を妬まれて左遷された。
おかげで今は、寂れた屋敷で主とウメのふたりだけ。
夜。
縁側に酒の用意を整えて、主は月を眺めながら無言で杯を傾けている。
ウメは邪魔をしないように隣で静かに控えていた。
「ウメ、こちらへ来い」
不意に呼ばれて、目を瞬く。
「どうした。早く来い」
主は膝をたたきながら、再度促してくる。
「……あるじ様の、膝の上ですか?」
「そうだ」
そこへ乗ると、酒を飲むにも月を眺めるにも邪魔ではないかなと首を傾げたが、主が言うならウメは従うまでだ。
よいしょと、遠慮なく主の膝の上へ座る。すると、ウメを支えるように腹部へ腕が回された。
「あったかいですね」
「そうか。私も温かい」
主が、くいっと杯を飲み干す。
「あるじ様、私も飲んでみたいです」
「……大丈夫なのか?」
ウメは水と光があれば生きていけるので、食物を摂取する必要はないのだが。
たぶん大丈夫だと頷けば、主は杯をウメの口元に寄せ、少しだけ傾けてくれた。
「…………美味しいです」
「そうか。だが、もうやめておけ」
主に手ずから与えられた酒は甘露のようだったが、それ以上は許してもらえず。
しばらく、ふたりで月を見上げていた。
中央でばりばり働いていたけど同僚に妬まれて左遷された主と、屋敷にあった梅の木の精(勝手について来た)の話でした。
のんびり貧乏暮らしを楽しんでいるふたり。
まさか主の手で飲ませてもらえると思っていなかったので、実はちょっと驚いたウメ。




