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恋囀鳥 (花屋店員 と 不思議な鳥に懐かれた娘さん)

エックスのフォロワーさんが、鳥飼泰のイメージでタイトルを考えてくださったの。

それが嬉しくって、小ネタ(というには長い話)を書きました(^^)

朝。家を出ると、どこからか飛んできた何かが肩に止まった。

びっくりして肩へ目を向ければそれはずいぶんときれいな色の小鳥で、また驚いた。

まず頭は鮮やかな橙色で、そこにちょこんと配置されたつぶらな瞳には白の縁取り。体は背中からふわふわのお腹まで、淡い黄色で染まっているようだ。ぴこぴこと動く尾羽は白い。そして最も目を引くのが、くちばしの色。小鳥の動きに合わせてきらきらと輝いているのは、雨上がりの空に架かる橋の色、虹色だった。

小鳥の色彩に驚きながらとりあえず肩から降ろそうと手を出すが、いやだいやだと小鳥は離れない。


「こまったなあ」


肩で丸くなってしまった小鳥を連れて、仕方なくそのまま仕事へ向かうことにした。



職場の雑貨屋へ行く前に、店で飾るための花を買う。これはいつもの習慣で、なにも変わったことはない。

ただ、少し珍しい小鳥が肩に止まっているせいだろう。いつもより周囲からの視線を感じた。


「お前のせいだよ」


指で虹色のくちばしをつんと突いてみても、小鳥は首を傾げるような仕草をするだけで飛び立とうとはしなかった。どうしてここまで懐かれてしまったのか、さっぱり分からない。


通りをしばらく行くと、目的の花屋が見えてくる。

店先では、青年がいつものように丁寧に花の手入れをしていた。その姿が目に入るだけで少し心が浮き立つ。

こちらに気づいた青年が笑顔を向けてきたので、それに返そうとしたとき。


「ぴゅるるるるるる」


肩の小鳥が美声を響かせた。


突然の鳴き声に、花屋の青年は目をぱちくりとさせた。


「あー、驚かせてごめんなさい。よく分からないけれど、今朝から懐かれちゃって」

「へえ。野生の鳥かな……って、え、くちばしが虹色?」


やはり虹色のくちばしは目を引くようで、青年はまじまじと小鳥を見つめてくる。


「きれいですよね。そういえば、はじめて鳴いたところを見ましたが、鳴き声も可愛らしくて」


そこで急に、ぱっと顔を離した青年が、なんだかそわそわし始めた。


「あの、なにか?」

「えっ! あ、いや、その、うーん……この反応は、もしかして知らないのかなあ。そういえば、ずっと遠い国の出身って言ってたっけ。どうしよう。でもこんなところで説明するのも、」


青年は俯いてなにやら言っていたが、ちょど小鳥が髪の中にもぐり込もうとしてくるのを防ぐのに忙しくてよく聞こえなかった。



花屋の青年がもの言いたげだったのは気になったが、あまり遅くなるわけにもいかない。

深く問いかけることはせずに、そのまま花を買って出勤した。


「おや、おはよう。今日は少し遅いようだから心配していたよ」


雑貨屋へ入ると、老婆が穏やかな笑みで迎えてくれた。

店主の老婆は、一年前にこの国へやって来た自分を、孫を見ているようだと言って世話をしてくれた恩人。海を越えたはるか東の国の出身で頼る者もない中で、とても心強く思えた。

それからずっと、困ったことがあればいつでも相談しなさいという言葉に甘えて、つい頼ってしまう存在だ。


「おはようございます。遅れてごめんなさい。ちょっと、この小鳥が……」


だから、いつまでも肩からどかない小鳥のことも聞いてみることにした。



老婆から話を聞いて、叫び出したくなった。

肩の小鳥は、この国では誰でも知っている有名な魔法生物だそうだ。

羽色は赤や紫や黄色とさまざまだが、くちばしは必ず虹色。それだけならば可愛いだけだが、この小鳥は人間の恋の感情が大好物で、恋をする者に寄って来る。

それも、片思いをしている人物に。


「つまりこの子を肩に乗せていた私は、片思い中ですって大宣伝してたの……」


小鳥の鳴き声は美しいが、それを聞いたものは少ない。

なぜなら、小鳥が鳴くのは「その人間が恋する相手」を前にしたときのみだから。

ゆえに、恋囀鳥と呼ばれている。


「……鳴いた。あのひとを前に、ばっちり鳴いた」


知らぬ間に、公開告白をしていたらしい。

店番をしている今も、本当は走り出したいくらいに羞恥心が暴れている。

彼はどう思っただろう。おかしな態度は、恋囀鳥のことを知っていたからだったのだ。

あのときの、彼の慌てた様子が目に浮かぶ。


「こんにちは」


――ああ、幻聴まで聞こえてきた。


だがもう一度呼びかけられて、まさかと慌てて店先へ走る。


「ひえっ、幻聴じゃない!」

「あ、その様子だと、恋囀鳥のことを聞きましたね」


少し眉を下げて笑う青年の様子に、ああ困らせてしまったのかなと、落ち込みそうになる。


「あの、さっきのは! その、できれば忘れてもらえると……」

「待って」


青年の優しい声がさえぎった。


「君は恋囀鳥を知らなかったでしょう? でもそれだと公平じゃないから、俺も連れて来ました」


なにをだろうかと青年を見れば、その手には紙箱が。そうっと開けられた隙間から小鳥が飛び出した。

その小鳥のくちばしの色は、虹色。恋囀鳥だ。

小鳥は青年の肩へ上がり、きょろきょろを辺りを見回した後、こちらへ目を向けると大きく胸を膨らませて。

先ほども聞いた美しい声で鳴いた。

すると青年の恋囀鳥の鳴き声に応えるかのように、こちらの肩に止まっていた小鳥も鳴き声を上げた。


「ぴゅるるるるるる」

「るるるるるるる」


何度か鳴きかわすと二羽は飛び立ち、そのまま連れ添って空へと溶けるように消えてしまった。


「俺が連れて来た恋囀鳥が、君を見て鳴きました」

「そうですね。……え?」

「そう、君と同じように」


先ほどの二羽のじゃれ合いに、ぼうっとしてしまっていた。

つい返事をしたが、話がうまくのみ込めない。

そんなこちらの様子に構わず、青年は続ける。


「恋囀鳥はね、宿主の片思い相手を前にすると鳴く。それから、思い合っている宿主同士が会うと、こうして二羽が一緒になって消えるんです。彼らの大好物は片思いの感情だから、両思いになったら用はないのかな」


両思いって、なんだっけ。

ますます混乱して青年を見やれば、そっと手を取られた。


「恋囀鳥が勝手にばらしてしまったけれど、きっとまだそんなつもりではなかったでしょう? 俺も、ゆっくり仲良くなる計画が台無しです。だからね、仕切り直しに、ひとまず今日の夕飯を一緒にどうですか?」


未だにまったく状況についていけていないがとにかく仕切り直しは大歓迎だと、青年の手を握り返した。



この後は、和やかにお食事をして、その後も何度かデートを重ねて。

お互いに「好き」って言いそびれたまま時間が経って、曖昧な関係に不安になる……みたいなひと騒動があるかもしれない。

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