王兄殿下 (鳥飼泰の好きなやつ、その1)
鳥飼泰の好きな設定その1「王兄殿下」
「やあ、弟よ」
「兄上」
不意に姿を見せた兄に、王は驚きを隠せなかった。
この兄とは、狂った父王を共に討った。その後に粛清の手を緩めず奸臣たちを一掃したときも、いつも傍に在った。だが周囲が落ち着いたころを見計らったように、軽い挨拶だけで兄は王宮を去ってしまった。
そうだ、それ以来、連絡は寄こしても王宮へ現れたことは一度も無かったはずだ。
それが今ここに来たということは、もしやよほどの事があったのかと尋ねれば、王兄はにっこり笑った。
「報告があってね。実は少し前に、東の森で迷い人を保護したのだよ」
異世界からの迷い人は例外なく国の管轄となる。発見者には、国への届け出が義務付けられている。
つまりこの場合は兄が届け出の義務を負うということだが、それだけでわざわざ王宮へ出向く理由になるとは思えなかった。
「その迷い人、私がもらうことにした。国への届け出をしないのは都合が悪いことも多そうだから、そこは我慢しよう。今度、ここへ連れて来てお前に紹介するから、うまいこと処理しておくれ」
国の庇護下に置かれる迷い人を、いくら王兄でも個人のもとへやることはできない。つまりこの兄は、王に対して「書類を改ざんしてほしい」と言っているのだ。さすがに簡単に承諾できることではない。
渋い顔でうなる王に、王兄は首を傾げた。
「弟よ、もしや勘違いをしているのか? 私はお願いしているのではないよ。そうしろと、お前がやるべきことを告げているだけだ」
じっと静かに見つめてくる兄のまなざしに、王は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
父王から玉座を奪ったことで「簒奪王」などと呼ばれている王だが、実際に討ち果たしたのは目の前の王兄だ。さらにはその後に粛清の指揮を執ったのも。王になることでさえ、兄からそう言われたからではなかったか。
この兄の決めたことに、弟は逆らえない。
「――わかり、ました」
「ああ。お前が素直な弟でよかったよ」
最高権力者の兄って、すごく美味しいポジションだよねえ(^^)
ちなみに名前しか出てきませんが、「迷い人」がヒロインです(笑)
(これってあれだ。憧れの異世界転移もの!)




