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異国の英雄 (救国の魔人 と 幼い末姫)

「あの、あの…………、どうぞわたくしを、もらってください!」


頬を薔薇色に染めた五歳の末姫が叫んだ願いに、英雄と呼ばれる男が微笑ましげに笑った。





これといった資源も産業もない小さな国。自給自足の生活により王族と民の距離は近く、つつましくも和やかな日々が流れていた。

だがある日、隣国で王が代替わりすると、新王による周辺国への侵略が始まったのだ。


軍をほとんど持たない小国に、勝てる見込みなど無い。このまま蹂躙されるくらいなら己が身を差し出すべきかと、最前線で指揮を執る長兄が覚悟を決めたころ、戦場にひとりの男が現れた。

森へ狩りに出るような気軽さの装備で敵軍へ突撃する様子にも驚いたが、なによりも目を引くのは、その肌だった。この辺りでは見たことのない、褐色の肌。異国の民だ。男は瞬く間に戦況をひっくり返し、その勢いのまま、なんと敵軍を退却させてしまった。


民から英雄と称えられるようになった男を、王は礼を尽くして城へ迎えた。

謁見の場に現れた男に、末姫は一目で恋に落ちたようだった。その瞬間を運悪く目撃してしまった長兄は、この後を思って頭が痛んだ。長兄と男は、戦いの中で友人関係を築いていた。だから、男が遠い国の魔人であることも、その外見は長兄と同年代の二十代のように見えるが実年齢は百を超えることも知っていた。

幼い姫の恋は、叶うはずもないと分かっていた。


だが、恋する少女というのは思った以上に大胆な行動をとった。国の恩人である英雄に、自分をもらってほしいと告白するほどに。

その一部始終を見ていた長兄は、痛む頭を抱えるしかなかった。





英雄となった男は、そのまま国に滞在することとなった。隣国との講和交渉に加わりたいと、英雄自身が希望したためだ。

末姫は、英雄が国に留まったのは自分の願いを叶えてくれたからだと信じ、ますます英雄への思慕を募らせた。


「あの、もしよろしければ、お庭でお茶をいたしませんか?」

「ああ、構わない」

「ふふ! ありがとうございます。一緒に過ごせて嬉しいです」


無邪気に慕う幼い姫へ、英雄は優しい眼差しを向ける。

その光景は、恋人というよりも仲の良い兄妹のように見えて、長兄はやはり頭が痛かった。



「うちの末姫が、すまない」

「うん? どうして謝る?」

「その、あの子はまだ幼いが故に、真っ直ぐなんだ。本当に君と一緒になれると信じている。それは無理なのだと、王や私たちは理解しているから安心してくれ。……だができるなら、君がこの国に滞在する間だけでいいから、どうか妹に付き合ってやってほしい」


国の恩人に迷惑をかけるのは本意ではないが、やはり幼い妹は可愛い。英雄が国を発つときには泣くだろうが、それまで夢を見させてやりたかった。妹のため、長兄は頭を下げた。

そんな長兄の様子を見た英雄は、不思議そうに目を瞬いた。


「なぜ、無理なんだ?」

「え?」

「姫はあのとき、俺を欲した。この俺を選ぶとは見る目があるなと感心したぞ。もちろん俺は、講和交渉を終えたら姫を国へ連れ帰るつもりだ」

「は? いや、しかし、君にとって姫は幼すぎるだろう……?」

「ははは。人間など、魔人である俺にはみんな幼子さ」

「それはそうだが、」

「俺たちは千年生きる。そのうち幼年期は二十年足らずだ。人間の、それも姫くらいの年頃の子どもなど、可愛くて仕方がない。そしてその可愛い存在が頬を染め、俺を好きだと言う」

「え、っと、」

「なあ、分かるか? 俺はたまたまこの国へ立ち寄り、たまたま戦いに手を貸しただけだが、実に僥倖だったな。これ以上ない可愛い伴侶に出会えた」

「え? は? …………え?」

「はははは。なにを混乱することがある? 姫の願いを俺は受け入れ、姫も幸せ、俺も幸せだ。兄として祝福してくれ」





数か月後。

喜びでいっぱいの姫を伴った英雄が魔人の国へと帰って行くのを、長兄は複雑な気持ちで見送った。




見た目、二十代と五歳のふたり。実際は百歳と五歳。

数百歳の魔人たちにとっては五歳の人間なんて赤ちゃんみたいなもので、魔人の国でみんなから可愛がられるようになる。

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