朝の幸せ その後 (ビルのカフェ店員 と ビルの会社員)
前話「朝の幸せ」のつづき。
週明けのふたりはどうなるのかな~?と考えて、まとまったので小ネタにしました。
あの至福のコーヒータイムから一週間が経ち、再びの土曜日。
月曜から金曜まで毎日、ビル一階のカフェでコーヒーを注文した。その間、彼からあの日への言及は一切なかった。おかげで、木曜あたりになると、あれは夢だったのかもしれないという気までしてきて、忘れるべきかと心の整理を始めた。
とはいえ、こうして土曜になればどうしたって思い出す。今日は土曜出勤の必要はない。出勤もしないのに会社のビルへは行けないし、そもそもカフェだって店休日だ。先週は、たまたま雑事を片づけに来ただけだと彼は言っていた。だから行っても会えはしない。
それでも、せめてあのコーヒーを飲んで幸せだった時間の思い出に浸ろう、楽しい過去として処理できるように、と同じ店へ足を向けた。
いらっしゃいませの声に迎えられた店で、まず目を向けた先。先週と同じ席、そこに彼がいた。
コーヒーを傍らに開いていた本から目を上げた彼は、こちらに気づくと穏やかに微笑みを浮かべた。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは……」
どうぞと向かいの空席を手で示され、慌ててカウンターで注文をしてコーヒー片手に席に着いた。
「……………………」
勧められるがままに相席してしまったが、これからどうすればいいのだろう。
なぜ、彼がここにいるのか。先週のことは、彼の中でどういう扱いになっているのか。
混乱した心中を表に出さないように気をつければ、がちりと体が固くなった。
そこへ、こうばしい芳醇な香気が立ち上ってくる。
馥郁たるコーヒーの香りに、少しだけ落ち着きを取り戻した。
その様子が、コーヒーの香りを堪能しているように見えたらしい。
「ここのコーヒー、気に入りました?」
微笑ましげに尋ねられ、ぱちりと目を開く。言葉は自然と出た。
「コーヒーもですけど。あなたと一緒に飲む時間が、とても気に入りました」
目の前の彼は、おやまあとでも言うように目を丸くした。
「……ふふ。私も、先週はとても楽しい時間でした。仕事中ではないあなたのくつろいだ様子を眺めながら飲むコーヒーが、とても気に入ってしまいまして。今日もあなたが来るという保証はないのに、つい、ここへ来てしまいました」
実はこれ二杯目です、とカップを掲げて眉を下げる彼に、聞きたいことはあれこれあったのに全てどうでもよくなった。
彼女「もう、なんでもいい! 好き!!」




