恋がはじまったとき (領主 と 召し使い)
こちら、#ただちに始めるためのお題 からお題をいただいて書いた話のキャラクターです。
領主ファーシルは、自身の仕事に誇りを持っている。
領地を豊かにして領民たちを幸せにするのは楽しく、やりがいがあった。
ただ、たまには少し疲れることもある。
その日ファーシルは、ひとり庭のベンチに座り、ぼうっとしていた。山積した問題から少しばかり離れたかったのだ。
そこへ、ひょっこりと召し使いのエルが顔を出した。
「ぎゃっ。ご主人様!」
「エル、なにをしているのですか?」
おおげさに驚く様を不審に思って聞けば。調理場で余ったりんごをもらったエルは、こっそり庭で焼いて食べようとしていたらしい。
その手元に目をやれば、すでに香ばしく焼けたりんごが。
「…………火の始末はきちんとしましたか」
「それはもちろんです」
エルには庭の西部分を任せているから、そこでの不始末はないだろう。
ならばいいかと、ため息を吐いてベンチに背を預ける。
その様子を見たエルが、首を傾げる。
「……あれ、なにかお疲れですか? ご主人様は真面目だから、たまには気を抜いた方がいいですよ。はい、お裾分けです」
そう言って、エルは熱々の焼きりんごをひとつ差し出した。
それは、頭を悩ます深刻な問題とはかけ離れた、のどかな香りがした。
問題がぐちゃぐちゃに詰め込まれた頭を、焼きりんごの香りが優しく包み込む。
(エルも、同じ香りがするな……)
一緒にいればさぞかし癒やされるだろうと思ったら、焼きりんごとは別のものへ自然と手を伸ばしていた。
疲れた領主様は、のほほんとした召し使いに癒やしを見出してしまいました。
このあと、焼きりんごではなく召し使いがぱくりといただかれます(^^)




