なぜ、私なのでしょうか (気持ちを言い忘れている上司 と 言葉が欲しい部下)
日々の業務を処理する傍ら、唐突に上司から言われた。
妻にならないか、と。
「……なぜ、私なのでしょうか」
「お前であれば、宰相たる私の妻が務まると思ったからだ」
その言葉を受けてむっつりと黙った部下に、上司である宰相は首を傾げた。
「不満か? 私はお前の仕事ぶりを評価している。もちろん、結婚後も私の副官としての仕事は続けてもらいたい」
自分の仕事が評価されることは素直に嬉しいが、だから妻にしたいと言われても頷けるものではない。
だが上司は、いまだ不思議そうな顔をしている。
「私とお前の関係は良好だと認識している。お前にとっても悪い提案ではないと思うが」
「……私とあなたの関係が良好なのは、言葉の足りないあなたの言動についていける者が他にいないからですよ」
「そうだな、お前は言わずとも察してくれるからとても助かる」
嬉しそうに笑う顔が意外と幼く見えても、部下は絆されたりはしない。なぜ自分なのかという問いに、まだ求める答えをもらっていないのだから。
「言葉なしでは承知できないこともあります」
ここで上司は、何かに気づいたように目を瞬いた。
やっと部下の意図を理解したらしいが、察しろと言うわりに自分は鈍い。
「その、…………私がお前を妻にと求めるのは、愛しているからだ」
ようやく最初の問いに正解をくれた上司に、部下は微笑んで、私もですと頷いた。
言わずとも察する部下に慣れ過ぎて、気持ちを言葉にするのさえもうっかり流そうとした上司。部下はご立腹。
上司は宰相なので、けっこういい年のおじさんですよ(^^)




