転生
ライセルが攻略しようとしているのは地下10階だと推測されるダンジョンである。
冒険者時代、地下30階、40階を探索したライセルにとって、このダンジョンの攻略は簡単な事に思えた。
だが、年齢による衰えと長年のブランクはそれを許さない。
10階を進むころから各員の怪我が多くなり、魔術師フィリップが足を引っ張る。事あるごとにフィリップは立ち止まり入念にあたりを調べるのだ。ライセルから見て明らかに何もない部屋に入る前も立ち止まり辺りを調べるのだ。
「くそ!またか魔法使い!!」
当のフィリップは少しでも生存率を上げる為にやっている。怪我が多くなっているように見えるが、その逆で少ない方なのだ。
パーティの人員には60才以下がいない。その人員で安全に探索するには慎重の上に慎重であっても問題はない。
更に言えばフィリップ達は好んでライセルに協力しているわけではない。
かつて自らが所属し自らの手でSランクにまで登りつめたギルドの存亡の危機である。だからライセルを手伝っているだけなのだ。
「もういい!ここにそんな危険があるはずが無い!!」
「いや、待って。まずは探索するのは基本だ。手に負えないモンスターが出たら死活問題だぞ!」
「またか、ライセル。だからお前は……」
パーティの何人かがライセルを押しとどめる。引退したとはいえ彼ら自身の長年冒険者をやっていた経験からの意見だ。
(今はこいつらの機嫌を損ねるわけにはいかねぇ……。くそっ、俺の扱いは相変わらずの扱いかよ。これでもギルド長様だぞ!)
ライセルは不承不承な顔をしてその場から離れた。
「探知魔法では部屋の中に大きな魔力を感じますな。」
「扉の鍵はない。罠も無し。だが、閉じ込め防止の楔を用意しておこう。」
「左右からモンスターの来る気配なし。」
「よし、扉を開けるぞ。」
斥候らしい男が扉を開け素早く楔で扉を固定する。
彼らが入った部屋は、幅10m奥行き10m高さ10mの正立方体の部屋で中央に祭壇があり、青白い斧が祭壇に突き刺さっていた。
祭壇を挟んで反対側には扉が見える。どうやら更に奥へ繋がっている様だ。
「お、お宝だ!」
目の前の青白い斧を見たライセルが思わず飛び出そうとする。
「まて!迂闊に近寄るんじゃない。罠の可能性がある!」
仲間の男がライセルをグイっと押しとどめる。だがライセルは斧から目を離そうとしない。
ライセルを押しとどめている男を除いた者たちで部屋の探索を開始した。
東西南北それぞれの壁を入念に調べてゆく。
「おい、みんなこっちへ来てくれ!」
丁度、反対側の扉を調べようしていたとフィリップの呼び声はライセル以外の者の意識を扉に向けた。
その時ライセルを押しとどめていた仲間の腕が緩む。その隙を突きライセルは仲間を押し倒し祭壇に駆け寄ると青白い斧を手をのばした。
「ライセル!きさまっ!」
押し倒された男はライセルを詰め寄ろうと急いで立ち上がった。
だがそんな男に目もくれずライセルは青白い斧に触れる。
ピキ!
ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ、ピキ
斧が突き刺さっていた祭壇に無数のひびが入り、ひび割れた祭壇の隙間から炎が噴き出す。噴き出す炎は祭壇を吹き飛ばし周囲にいた仲間たちに降り注いだ。
そして噴き出す炎の中から炎の竜、サラマンダーが出現した。
サラマンダーは出現と同時に火焔をまき散らし部屋にいた者たちを焼いく。
「うぎゃぁあああ!」
「燃える!燃えてゆく!!」
「ワシの右手が!!!」
遠く離れていたフィリップも体の右半分を焼かれ右手足の一部は炭化し転倒する。
だが、至近距離にいたライセルは全くの無傷だった。
「ライセル!早くその斧を元に戻せ!!」
「じ、冗談じゃねえ!せっかく手に入れたお宝を渡せるか!これは俺の物だ!!」
フィリップの叫び声を無視し、ライセルはその場から逃げ出した。
サラマンダーはライセルに向かって火を噴くが斧の効果だろうか、全く炎を受け付けない。
その上、この部屋からは出ることが出来ない様だ。何とか一命をとりとめたフィリップは必死に逃げ道を考えていた。
(だめだ、このままだとサラマンダーに殺される!!何もしなければサラマンダーによって確実に死ぬ。だが、奥の部屋なら、万が一安全地帯となっていたら助かる。私は死にたくないっ!!まだ死ねないんだっ!!!)
這いつくばりながら残る左手を使い必死で逃げるフィリップ。逃げる先は扉の向こうの部屋、探索しようとしていた部屋しかない。
必死で逃げるフィリップの左手に爪は剥がれ血が吹きだす。だがそんなことで躊躇する暇はない。
今は部屋に入るのだ!
部屋に入りサラマンダーから逃れたフィリップの前に輝く白い球が浮いていた。
「……これはダンジョンコア……」
フィリップはその白いコアに手を伸ばした。
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その日、王都近郊から少し離れた場所にある未探査のダンジョンから五体のアンデットが溢れ出た。
溢れ出たアンデットを率いているのが、魔法を使い、死者を操るアンデット。不死の魔術師“リッチ”。残り四体の不死の騎士を引き連れダンジョンから現れたのだ。
アンデットは防御力が低い傾向にある。しかし、不死の騎士は防御力が極めて高い厄介なアンデットなのだ。その上、高位アンデットであるため浄化に対する抵抗も高く討伐するのも数人がかりで当たる必要のある厄介な相手なのだ。
その知らせが王宮に届いたのは出現から二日後。
ダンジョン近くにあった中堅ギルド現場事務所の冒険者たちが全滅した後だった。
報告を受けた王宮は直ちに対策本部を設け、上位ギルドから腕の良い冒険者、アンデットのエキスパートがが集められた。
その中でも偵察に特化した冒険者数名による偵察が行われ、第一報が今まさに届いたところなのである。
「偵察した者の報告によると、“リッチ”は王都に向かって移動しているとあるな。これは普通の事なのか?」
報告書を読んだリヒトファラス王は傍らの宮廷魔導士のディルマに尋ねた。
年の頃は40すぎ、肩まで伸びた金髪には白いものが多くなり、顔のしわも深く多くなっている。だが青い目は鋭く光り、現在も精力的に活動する王らしく、鍛えられた体が服の上からも判るほどである。
「王よ。これは通常の不死者の動きとは異なります。通常、不死者は生者を求めて動くもの、不死者から近い町や村が被害にあいます。しかしそれがありません。」
宮廷魔導士、その優れた知識を乞われ王に仕える魔導士である。
紫のローブを身に纏い、フードで姿は見えないが時おり見える白髪や皺だらけの手からかなりの高齢であることがうかがえた。
「ふむ。ではなぜ王都にやって来る?」
「……生者でないとすれば、生以外の欲望……未練や妄執でしょうか。」
「未練……か。」
「他は……む、この男は?」
「“偵察へ向かう途中の街道で捕縛”、“満身創痍で何かから逃げる様に移動していた。”、“詳しい取り調べを行う為、王都へ護送”とありますな。」
途中の街道で捕縛された男、ギルド長“ライセル”は王都にある騎士団の詰め所で尋問を受けていた。




