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Sランクギルドを追放された魔導士、田舎でスローライフもくろむ・・・が?!  作者: 士口 十介
魔導士、辺境へ行く

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捏造記憶

 「異なるモンスターが出ると言っていたが、こいつぐらいだったな。」


 アウスゼンは巨大なカマドウマの様な死骸から剣を抜く。


「お、もうボス部屋の前ですぜ。途中もたいした事も無かったし、ボスも楽勝だな。」


 取り巻きのシュガーが傲然と言い放つ。

 彼らは今倒したモンスターが何と呼ばれているのかも知らない。先ほどの戦闘で自分達の武具がどうなっているのかも気づかなかった。

 そんな事も判らずアウスゼンはシュガーにある事を提案する。


「そうだシュガー。お前たまには先陣を切ってみるか?」


「いいんですかぃ?」


 ボス戦の先陣の大半はアウスゼンが切っていた。

 初回攻撃ファーストアタックにはいくつかの利点がある為である。だが常に先陣を切ると他の者から不満が出ることが多い。

 そして、未知の敵への攻撃にはリスクがある。アウスゼンはその二つを解消するため、戦った事の無い相手の先陣を譲っていた。

 アウスゼンは狡い男である。


「大丈夫だ、問題ない。」


「うぃひひひひ。ではお言葉に甘えて・・・。」


 シュガー自身はあまり物事を深く考えない。そのためホイホイ簡単に話に乗る。いつもと変わらない様子を見てアウスゼンはニヤリと笑う。


「よし、ではいつものアレをやるぞ!」


 アウスゼンはパーティメンバーに号令をかけた。


「「「おう!」」」


 全員勢いよく返事をする。


「俺達は最強だ!」


「「「おう!」」」


「俺達に敵は無い!」


「「「おう!」」」


「俺達は無敵だ!」


「「「おう!」」」


 これはアウスゼン達、いやSランクギルド“フェールズ”の力の秘密である。皆で円陣を組み自己暗示をかける。一種の自己催眠状態になるのだ。

 自己催眠によって各自の能力を一時的に上げボスに対抗する。


「いくぜぇぇぇぇ!」


 掛け声を発するとシュガーを先頭にボス部屋に突入していった。 




 数分後。

 アウスゼンは一人、十階の道をよろよろ動いていた。九階の安全地帯目指しているのだ。

 体のあちこちに擦り傷、やけど、打ち身の痕が無惨に壊れた鎧から見えている。手に持つ剣も途中から折れボロボロである。


(クソ!何でこうなった!)


 十階のボスはブロンズゴーレムと言う金属の巨人叩く系列の武器以外の武器は通じない難敵である。

 加えて強力な打撃と火炎ブレスによる攻撃方法を持つ。その巨人の前にアウスゼン達のパーティは崩壊した。


 最初の攻撃で突撃した連中の武具が壊れる。さらにブロンズゴーレムのブレスがパーティに襲いかかり、最後尾のアウスゼンの武具も壊れてしまう。


 先陣を切った一人が真っ赤な火柱になる。火だるまになる仲間を見たその瞬間、アウスゼンは逃げ出した。

 本来、後方に控えているアウスゼンには仲間を安全に誘導する義務がある。それを放り出したのだ。


 だがそのアウスゼンに追いすがる者がいた。


「酷いじゃないですか。アウスゼンさん。」


 逃げるアウスゼンをシュガーが追いかけて来た。彼もまた武器は無く、鎧は半壊し、体の所々に火傷が見える。


「・・・他の連中は?」


 アウスゼンは恐る恐る尋ねる。


「お、俺以外はみんなあのゴーレムに焼かれ叩き潰されましたよ!」


 シュガーは疲れた顔でそう叫んだ。

 アウスゼンに追いつくため全力疾走したのだろう。息も絶え絶えだ。


「くそ!・・・こうなったのもお前が楽勝と言うからだ!!」


 アウスゼンは顔を醜く歪めながらシュガーをなじる。


「アススゼンさん?」


「そうだ、お前だ!お前が悪いんだ!」


「いや突入を決定したのは・・・」


「うるさい!うるさい!うるさい!」


アウスゼンは幼子の様に地団駄を踏む。



「・・・そうだ、お前が悪い。お前が悪いんだから、責任を取らなきゃな・・・。」


 そう言うと、アウスゼンはシュガーを軽く突き飛ばした。

 突き飛ばされたシュガーはゆっくり起き上がると


「アウスゼンさん何を?」


「せいぜい俺の為に囮になっとけ!!」


「え?」


 疑問符を浮かべるシュガーの首元に生暖かい吐息がかかる。


 ゆっくりと振り向いたシュガーの目の前に飢えたオークがよだれを垂らしてこちらを見ている。そして手に持った棍棒を振りかぶった。




 アウスゼンが這いつくばる様に九階の安全地帯にたどり着いた時、そこには数人の騎士が待ち構えていた。

その中に一人、手に冊子を持った騎士がアウスゼンにつめ寄る。

 その圧力に気圧されてアウスゼンはゴクリと唾を飲んだ。


「・・・君はギルド“フェールズ“の者だな?少し聞きたいことがある。私は王立騎士団第1捜査課の隊長Mcクラウド。」


 王立騎士団第1捜査課。

 主に王国内で起こった殺人や強盗事件を担当する部署である。アウスゼンはギョッとした。


「い、一体何を?」


 恐る恐る尋ねるアウスゼンを見るクラウドの眼は鋭い。


「魔法使い殺しについてだ。」


「魔法使い殺し・・・」


「ラーガと言う魔法使いだ。ここで撲殺死体として発見された。」


 そう言ってクラウドは手に持った冊子をめくる。

 冊子の表紙には“dー012ダンジョン攻略申請書”と書かれていた。フェールズで提出した攻略申請書の様だ。

 パラパラと申請書をめくる騎士の表情には冷笑が浮かんでいた。


「ところで今日出されている申請は九階までのはずだが、……君は下から来たね?」


「……」


「どうやら君には色々聞くことがありそうだね。おい、彼を本部まで丁重に送ってやれ。」


 クラウドはアウスゼンを本部に連行する様、部下に命じた。




(くそ、くそ、くそ、何故、どうしてこうなった。)


 騎士団へ護送される馬車の中でアウスゼンは焦っていた。このままでは自分が全ての罪を負うことになるだろう。


 騎士団に嘘は通じない。

 何故なら、騎士団には嘘を見破る水晶球“真実の玉”が存在する。この玉の前で虚偽の報告をする場合、嘘にふさわしい罰を受ける。

 嘘の程度により罰の内容は変わる。今回の様に無罪を主張した場合、死を免れる事は無いだろう。


(玉から逃れる方法・・・。)


(確か、強力な暗示で回避する事が可能だと言っていた・・・。)


(たしか、いつもの方法だったな・・・)


 アウスゼンは繰り返しブツブツと呟いた。


(こうなったのはシュガーのせいだ。奴が食料に余分があると言ったから・・・。)

(そうだ、シュガーだ。奴は食料を余分に持ってきたんだ。)

(シュガーは元々、十階に降りるつもりだったに違いない。)

(ラーガは・・・確かに俺は少し小突いたかもしれない、死ぬほどのことは無いはずだ。)

(あの後、誰がやって来た・・・シュガーだ!)

(すべてシュガーが俺をはめる為にやったに違いない!!)


 アウスゼンの不気味な呟きは馬車が騎士団の本部に着くまで行われた。



-------------------



 バサッ!


 クラウドが持っていた書類を机に放りだした。


「荒れてるね。どうした?」


 鋼の車椅子に座る男がクラウドに話しかけた。彼はどうやら足が悪いらしい。


「Feサイド大隊長・・・捕まえた容疑者、シロだったのですよ。」


「ほぅ?・・・玉を使ったか?」


「使いましたよ。しかし何も無かった。呪文を使った跡もありません。」


 話を聞いていたクラウドはふぅっと息を吐き、


「そいつが真実を述べているという事だろう。」


「しかし、十階に降りた理由が、“仲間を叩きのめしたシュガーを追って降りた”と言うのですよ。」


「手当もせずにか?不自然だな。」


「そうです。でも悔やまれるのは、撲殺された死体が無い事です。」


 ダンジョンに置かれた死体は一定時間経過した後にダンジョンに吸収される。それは魔物の出ない安全地帯であっても例外ではない。


「現場保存を優先したのが裏目に出たな。死体があれば死者に聞くことができたのだが……。」


 サイドが言う死者に聞くというのは、文字通り”死者に聞く“その為に王立騎士団捜査一課には専門の術師、いわゆる“死霊術師(ネクロマンサー)“クインシーが存在する。


「四人で降りて戻ったのはヤツ一人、あまりにも出来過ぎています。」


「・・・だが何もなければ、嘘は無いと判断するしかないのだ。」


 騎士団の使う“真実の玉”は“嘘を見破り厄災を与える”と言われている。

 それは正確では無い。玉は話す本人が嘘だと思わなければ厄災を与えない。たとえ嘘でも真実であると思い込んでいれば何も起こらないのである。


 戦闘時に自分に暗示をかける自己催眠。アウスゼンは自己催眠を使う事で自らの記憶を都合の良く捏造したのである。



「だが、奴らは“申請と異なる階に降り死者を出した。”これは問題だ。」


「では?」


「ギルド“フェールズ“に対して、ダンジョン探索資格停止半年間が妥当だろう。当事者としてのヤツも同じだ。」


「我々にはこのぐらいしかできないのか・・・。」



 アウスゼンは殺人犯の汚名を免れた。

 だが、その後の事を考えると殺人犯として犯罪奴隷になった方がましだったかもしれない。


 死者を出したギルド“フェールズ”はダンジョン探索資格は停止された。探索資格が停止すると公共のダンジョン探索は不可能になる。

 この事はカイが危惧していた通りギルドをゆっくりと追いつめてゆくのだった。

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