魔導士は工房を始動させられる
翌朝カイは心地よい風と日の光で目が覚めた。
依頼の報酬(予定)の工房は三階建てで工房は一階が受付と売店、二階が資料室と作業場、三階が住居区画となっており錬金術の工房として問題は無い。
「ふわぁ~」
大きなあくびをしながら窓から町の様子を眺める。
町の外側に建設中の大きな壁が見える。通りにそって様々な建物が数多くあるが、通りから離れた他の場所の建物はまばらである。
この町自体が作りかけなのだ。
朝早い時間とは言え人の往来は活発であり人の往来も多い。それに工房の下方からも話声が聞こえる。
「話し声?」
気になったカイが視線を下の方へ移すと、工房の入り口に何人か集まっているのが見えた。何人かは時折工房を覗いている様だ。
時々階段の下からドアがノックされている音も聞こえてきた。聞こえてくる扉をたたく音はだんだん大きくなりつつある。
(こんな朝早くから何の用だ?)
カイは首をかしげながら階段を降りる。
「はい、はい、今開けますから、ちょっと待ってください。」
外で待つ人々にそう言いながらカイは扉を開けた。
工房の扉を開けた途端、町の住人らしい人たちが雪崩を打つように入って来た。
「あんたがこの工房の先生かい。実は俺は冒険者で……。」
「この町の大工だが、昨日鉋で指を切っちまって……。」
「荷運びの途中で足を挫いて。」
「わしゃ腰が痛いんじゃ~。」
「お母さん、傷薬が欲しいって……。」
「ポーションを売ってくれないか、回復の!」
「俺は活力の奴を三つ!!」
「待て!俺が先だ!」
「なんだと、俺は朝早くから並んでいたんだ!」
カイの前に押し寄せた人々が口々に話す。
「ちょっと待ってくれ。俺は昨日来たばかりで何御用意も出来ていないのです。」
「来たばかり……。じゃあポーションは……。」
押し寄せた人々の何人かはカイの言葉を聞いた途端がっかりした表情になった。カイは自分の収納袋にいくつか在庫がある事を思い出した。
「いくつかはありますが……はっ!」
「「「「「売ってくれ!!」」」」」
カイがしまったと思った時には遅かった。その日は夕方まで工房に訪れた人々の対応に追われることになった。
「あ、ギルドへ登録に行くのを忘れていた……。明日にするか。」
その日、ギルドの受付嬢のフィリアは朝早くから気合を入れていた。
何時、魔導士が訪れるかもしれないのだ。その日は他の業務をすべて断り来るべき時に備える。時々手鏡を見て入念な自分の表情を確かめチェックを怠らない。
(よし!今日は完璧よ!昨日の失敗を繰り返さないわよ!!)
そして入口の扉を気合を込めキリリと見つめる。
(来るなら来なさい!今日の私は昨日の私ではありませんよ!)
準備万端、大変な気合を入れて臨むフィリアであった。
が、その気合が報いられることはなかった。




