〈42〉幸せ
「――病める時も健やかなる時も、共に支え合うことを誓いますか?」
「誓います」
コーベットのタウンハウスの庭園にて。
真っ白なウェディングドレスを着たエリノアは、例えようがないほどに綺麗だった。
オーレリアはもう、ため息しか出てこない。
この日がいずれ来ることを知ってはいたけれど、もう少し先のはずだった。
アトウッドから戻って一ヶ月。
兄はあの事件が落ち着いた隙を見て両親に言ったのだ。
「エリノアとの結婚を早めてもいいかな? 彼女への気持ちが募りすぎて、これ以上待ちたくないんだ」
少しも照れずにサラッと言った。
この兄とは顔が似ているだけで中身は何も似ていないな、とこういう時に思う。
予定ではあと一年くらい先だった。それを早めるという。
家族一同、反対する理由はなかった。
よって、よく晴れた秋の日にオーレリアには正式な義姉ができたのだ。
参列しているオーレリアとアーヴァインは、幸せそうな二人を眩しいものを見る目で眺めた。
皆に祝福され、兄がとてもデレデレしている。でも、仕方がない。オーレリアが兄の立場でもあんな花嫁をもらったらデレデレする。
「まあ、これといって心配することはないな。ユリシーズなら大丈夫だろう」
アーヴァインもそう言って太鼓判を押してくれた。
そう、ナヨッとしているけれど、兄はちゃんといろんなことを考えているし、エリノアを大事にするのは間違いないから。
「うん。あたしも可愛い義姉さんができて嬉しいし」
アーヴァインを見上げて笑いかけたら、見えないようにこっそりと手を繋がれた。
「次は俺たちの番だ。わかっているな?」
「も、もちろん」
ささやかれて少し照れた。
この時、視線を感じて振り向くと、いつもよりもちょっとおめかししたコリンがいた。
けれど――。
コリンはニコッと笑った。オーレリアにではなく、アーヴァインに向けて。
そして、アーヴァインもコリンに笑って返す。コリンは何も言わずに雑用を手伝いに駆けていった。
「……なあ、なんで急にコリンとわかり合ってるのさ?」
変だ。絶対何かあった。
訊ね返すオーレリアだったが、アーヴァインにはぐらかされた。
「男同士の秘密だから、教えない」
「はぁ?」
教えてくれないらしい。
オーレリアが寝込んでいる間に何か話したのだろうか。
仲が悪いよりはいいけれど。
気がつくと、テラスのところにガルムがいた。胸元に蝶ネクタイがついている。可愛い。
平和だし、隣には大事な人がいてくれる。
この幸せがずっと続きますように。
オーレリアはそう願って、高く眩しい空に映える、花嫁のブーケを受け取った。
【 続編 ―了― 】




