第150話 記念の塩釜焼き
その後、午後は屋台の営業を頑張り、夕方に宿へと向かう。
今日はまだ、住む準備が出来ていないからね。
「明日の午前中、必要なものを買いに行くか」
大きな家具が残っているとはいえ、2人でシェアハウスするには足りないものもある。
「そうですね。あと、何かお祝いの食べ物を買いましょう」
「お祝い?」
「はい、せっかくですから記念に」
「了解」
引っ越しもイベントだからな。そういうのもありかもしれない。
「リュウさんの世界では何かお祝いのものってありますか?」
「めちゃくちゃたくさんあるよ」
縁起物という意味では日本にはたくさんの料理があるからね。
おせち料理を数え始めたらきりがないくらいだ。
引っ越しといえば、そばが思いつくけど、あれって配るものだからな。
少し違う。
「せっかくならケンドットだから食べられるものがいいよな」
「となると、魚を使った料理ですかね」
「そしたら……塩釜焼きを作ってみるか」
「塩釜焼き?」
「魚を塩で包んで焼き上げる料理なんだ。俺の国ではお祝いの席で出てきたりするよ」
見た目のインパクトもあるし、一度やってみたいと思ってたんだよな。
工程もそこまで難しくないらしいからね。
「そんな料理があるんですね!食べてみたいです」
サラも興味津々だ。
「明日市場にいって魚を見てこよう」
「はい!」
―――
次の日は営業を休みにして、必要な家具だったりを揃えていった。
収納魔法があるから、持ち運びに苦労しないのは助かるよ。
その後、市場へと向かう。
「良さそうな魚はあるかな」
出来ることなら、タイに近い魚が手に入るといいんだけど。
「お、これ似てるな」
市場を歩いていると、背びれがかなりとげとげしいタイのような魚を見つけた。
名前もタイタイというらしい。
これにしようか。
「すいません、これを一つください」
「ありがとうございます。下処理はしますか?」
「鱗と内臓を取って欲しいのと、背びれを切り落としてくれると助かります」
「かしこまりました」
魚屋のお兄さんが包丁を使ってとんでもないスピードで鱗を取っていく。
そして、一瞬でお腹を割いて内臓を取り出した。
きっと魚を捌くのに特化したスキルを持っているんだろうなぁ。
俺は代金として1500クローネを支払ってタイタイを受け取った。
その後、家に移動して、引っ越し作業を進める。
例えば魔石を設置してキッチンを使えるようにしたりとかだ。
それと自分の部屋の荷物をおろしたりする。
まあ俺の場合、寝る場所さえ確保出来たら十分なんだよな。
あんまり物を持つタイプじゃないからね。
サラの方は部屋に小さな本棚なんかを置いていた。
そして、ケンドットに来る時点で俺の収納魔法に預けていた自分の本を並べてたりしている。
ここら辺は人の好みが出るな。
各々の部屋の整理を終えたところで引っ越しが完了した。
「改めてこれからお願いしますね」
「こっちこそよろしく」
こうして俺たちのルームシェアがスタートした。
「よし、塩釜焼きを作るか」
この部屋に来て最初のイベントを開始する。
俺は部屋の隅に屋台を召喚すると、創造魔法で大量の塩を作り出した。
「そんなに使うんですか!?」
サラが塩の山を見て驚きの声をあげる。
「うん、これがこの料理のポイントだからね」
俺は塩に卵の卵白を混ぜてかき混ぜていく。
ある程度塊状になったら、皿の上に塩を敷き、その上にお腹に昆布の葉っぱを入れたタイタイをのせる。
更に塩をかぶせて魚が完全に見えなくなったら、塩を魚の形に整え、準備は完了だ。
後はオーブンでじっくり焼いていこう。
ーーーーー
おおよそ4、50分後
「そろそろかな」
俺はオーブンから塩釜焼きを取り出した。
「うん、いい感じだ」
表面の塩が程よくこんがりした色になっている。
ぱっと見たら巨大なクッキーみたいだよな。
まあ、かぶりついたら塩分過多で一発KOなんだけど。
「そしたら、サラ、この木槌で叩いてみて」
「分かりました。えいっ!」
サラが木槌を振り下ろす。
すると、塩にヒビが入る。
塩の欠片を丁寧に取り除いていくと、
「うわー!」
サラが歓声を上げる。
中からは綺麗なタイタイが現れた。
焼きはうまく行ったみたいだ。
「「いただきます」」
俺たちは、一緒にタイタイをつつく。
「んー!思ったよりしょっぱくないんですね!私かなり塩辛い料理なのかなと思ってました!」
一口食べたサラが興奮気味に話す。
「サラの言う通り、いい塩加減になってるな」
塩のおかげで、タイタイのうま味が逃げることなくぎゅっと詰まっている。
それに味付けもシンプルにしてるから、素材のうま味がダイレクトに伝わってくる。
初挑戦だったけど、大成功だな。
こうして、俺たちは引っ越し記念の料理を楽しんだ。
食後は、自由時間として、各々好きなことをして過ごす。
今日はサラに本を借りてリビングで読書をすることにした。
題材は宮廷での三角関係を描いた恋愛小説だ。
裏で暗躍する人なんかも出てきて、なかなか深い物語になっている。
「ふぁ」
サラが横で欠伸をする。
「眠くなってきたので、そろそろ寝ますね。お休みなさい」
「ああ、お休み」
サラは眠い目をこすりながら自分の部屋へと戻っていった。
「よし、俺も寝るか」
明日も朝早いからね。
こうして、シェアハウスの1日目は終了した。




