第145話 一本漬けとセシルからの贈り物
それからは、昆布出汁の調整に時間を費やした。
2回目の試作品でも十分に美味しかったけど、まだ雑味があったりしたからね。
工夫はしていこう。
そう考えると、出汁をとるのって相当手間がかかる作業なんだな。
日本にいた頃はそもそも調味料の中に出汁とかが入っていたし。
ありがたみがよく分かるよ。
そしてついに、
「うん、これで完成だ」
葉っぱから美味しい部分だけを取り出した良い出汁を取ることに成功した。
「そしたら、このまま一本漬けを作ってみるか」
成功した勢いのままやっていこう。
「必要な食材は確か……」
俺はキュウリ、塩、砂糖、お酢、昆布出汁をそろえる。
まずは、調味料を出汁の中に入れて液を作る。
漬物だから塩味は濃いめにしておいた。
そこに、少し皮を剥いたキュウリを液の中に入れる。
実験を兼ねているから、配分を変えた液も作ってキュウリを漬けておいた。
「これで準備は完了と」
「すごく簡単なんですね」
サラが感心している。
調理そのものは液の中につけて終わりだからな。
「それじゃあ、収納魔法の中に入れてと……あれ?」
俺はしまってから違和感に気付いた。
「どうしました?」
「収納魔法に入れちゃダメなのか」
時間経過がないから漬からないんだよな。
「便利な収納魔法の盲点ですね。それにここは暑いですし、外に置いておくのも問題ですよね……」
サラの言う通り、腐ったりしたら一大事だからな。
「仕方がないから、クトルの店にお願いしようか」
ケーキ工房には冷蔵の魔導具があるから、一時的にそこに置かせてもらえるか聞いてみよう。
匂いが強いものではないから、蓋をすれば問題ないはずだし。
「そうしましょうか」
その後、クトルに手紙を送ったところ、快く了解してくれた。
ーーーーー
次の日、クトルから手紙が届いた。
リュウさん、サラさんへ
我が城の氷の監獄で一晩保管させてもらいました!
また何かあれば言ってください。
それと、セシルからリュウさんに渡して欲しいものがあるとのことです。
一緒に確認してください。
氷の監獄……まあ意味は伝わるから良しとしよう。
それにしても、セシルから俺にって何だろう。
収納魔法から取り出してみると円形の小さなものがあった。
一緒に手紙があったので読んでみることにする。
会長へ
ついに会長から依頼されていたものが完成しました!
これでさらに美味しいビールが飲めると思います。
感想を待っています。
さらに美味しいビール……あれか!ビールの泡を作る機械か!
よし、漬物をおつまみにこれも試させてもらおう。
ーーーーー
俺はキュウリを一本、液から取り出した。
浅漬けだからか、色はそんなに変化がないな。
そのまま豪快にかじる。
「たまんないよ」
キュウリのポリポリした食感の中に、濃い塩味と昆布だしのうま味がちょうどいい具合にしみ出してくる。
お酢のおかげで後味がさっぱりするから無限に食べられる味だ。
「私もいただきます」
美味しそうに食べている俺の姿をみて我慢できなくなったのか、サラも一口食べた。
「酢漬けに近いですけど、酸味は控えめで食べやすいですね。それに塩味が効いていますから暑いケンドットではピッタリです!」
サラはリスのようにもぐもぐと食べていった。
別の試作品も酸味を強くしたり、塩味を薄めにして出汁感を強くしたもの等それぞれ違った良さを味わうことが出来た。
調味料のバランスだけでこれだけ違うんだから、漬ける時間を変えたりしたらまた変化するんだろう。
漬物も奥が深い。
とりあえず、最初の試作品をベースに屋台での販売を目指そう。
「次はセシルの試作品か」
収納魔法から出てきたのは、小さな円形をした機械だった。
底の部分はビール瓶の口にはまるようになっていて、側面の部分に出口があった。
おそらくここからビールが出てくるのだろう。
セシルの手紙にあった説明によると、まずはグラスにビールが泡立たないように注ぎ、次のボタンを押しながら注ぐと、泡が出てくると書いてあった。
俺も指示に従って、グラスの6、7割ぐらいまで注ぐ。
そして、上についているボタンを押しながら再び瓶を傾けると……
「すげー!」
普通に注いだものより圧倒的にキメの細かい泡が出てきた。
見ているだけで喉が渇いてくるよ。
まだ昼間だけど、この泡を放置するのはもったいないし……
俺はグラスに口を付けた。
「!!!」
クリーミーな泡で口の中はいっぱいになった。そこに後から到達したビール本体が混じって喉の奥へと流れ込んでいく。
ああ、生きててよかった。そう思えるほどの感動だ。
あとでセシルに長文の感謝の手紙と報酬を送ることにしよう。
そのまま気分よくもう一杯注ごうとしたところで、鋭い視線を感じた。
サラがほっぺたを膨らませながら睨んでいる。
「……飲むか?」
ここでサラに飲ませないほど鬼ではない。
「いえ……しばらくお酒は飲まないって決めているんです」
そう言ってサラは下唇を噛んだ。
ああ、この前の失敗を反省しているんだな。
まあ、そういうことなら仕方がない。
俺は自分用にもう一杯注ごうとすると、
「あぁ……」
横からサラの嘆きが聞こえてくる。
……めちゃくちゃ飲みにくいな。
……夜一人でいるときに飲むことにするか。




