翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第3章 キル・ラルの遺跡 Act1
第3章 キル・ラルの遺跡
旅人の宿<オイスター>に朝が来た。
酒場が開くや否や、ならず者たちが集い始めるのだった・・・
オレゾンの街に朝が訪れた。
昼近くになってから店が開くと、ならず者たちが酒を求めてやって来る。
そう・・・そんな日常の一コマ。
唯、今日からは少しだけ違っていたのだが・・・
「おはよう・・・じゃないか。こんにちわって言えば良いかな?」
背伸びしながら頭上に狐モドキを載せたミコが階段を下りながら呼びかける。
「あらまぁ、お寝坊さんよねぇミコは」
もう起きて来ていたのか、あれだけ酒を喰らっていたタストン女史が笑う。
「あ、タストンさん。おはようございます」
昨日、契約した雇い主でもある宿屋の主人に朝の挨拶を告げると。
「もう一番の依頼はそいつらが請け負ったわよ?」
店を出て行こうとしているならず者達を指すタストンに。
「もう?って事は?」
此処<旅人の宿・オイスター>には、もう一つの顔があった。
宿屋と酒場・・・そして。
魔物を狩る・・依頼を遂行する為の基地としての顔が。
<モンスターハンター>ギルド加盟店として存在している<オイスター>という店が。
「あいつらが美味しい処を持って行っちゃったわよ?」
相変わらずグラスを磨き続けているクリロンの横で、用紙を整理しているタストン。
「ふーん、そうなんだね?だったらもう依頼は無いの?」
リュートを降ろしたミコが訊ねてみると、ニヤリと笑うタストンが地図を片手に。
「何を呑気な事を言ってるのよ。ミコにはしっかり稼ぎをして貰わなくっちゃ!」
手にした地図を机に広げて、ミコを手招きする。
「ミコはギルドの依頼が初めてなのだから、簡単なクエストに行って貰うわ。
この街から数キロ離れた所にある遺跡に、闇の魔物が棲みついたみたいなのよねぇ。
そいつを滅ぼして来て貰うだけ・・・ねぇ、簡単でしょ?」
ミコとリュートが、机に広げられた地図を観ると、
「ここがオレゾン。で、これが問題の遺跡。
途中にある泉を越えれば直ぐ目的地だから・・・そう遠くはないでしょ?」
地図で示された距離を観ても、確かに距離的には遠くは思えないが。
「問題は魔物の種別が、どんな奴なのかという事じゃないのか?」
リュートが簡単に請け負う事に、注意を促して来る。
「こんな近場のクエストなら、他の誰が行ってもおかしくない筈だぞ?
なにか訳アリなんじゃないのか?」
ちらりとタストン女史を見上げたリュートが訊ねると。
ぎくりと顔を強張らせた女主がそこに居た。
「やっぱり・・・何かあるんだな?」
疑惑を募らせたリュートが咎める横で。
「相手はどうあれ、この依頼は問題だよ。
だってこんな距離に魔物がいるのなら、街に襲い掛かるかも知れないんだよ?
その事の方が問題なんじゃないのかなぁ?
今迄誰もこの件にチャレンジして来なかったの?」
ミコが首を捻ってタストンに訊くと。
「い、いやまぁその、なんだ・・・つまりはそういう事。
ここに居る狩人達には手古摺る相手だという事なんだよねぇ」
言い難そうにタストンが教え始める。
「つまり、相手が悪いという事なのよ。
クエストに向かった狩人に因れば、相手は魔物だけじゃないって。
遺跡に問題があるようなのよねぇ、困った事には」
件の遺跡に、何があるというのか。
「遺跡自体に問題が?それはどんな物なの?」
情報を求めるミコに、乗り気になったのかと思ったタストンが。
「そうねぇ、翔龍騎だと、切り抜けられると思うんだけど。
なんでも罠が仕掛けられているようなのよ。
それも魔物には関係なく、遺跡自体に隠された秘宝があると言うんだけどねぇ」
遺跡には秘宝が残されていると告げた時。
「秘宝だって?それはどんな物なのか知ってるのか?」
リュートが思わず身を乗り出して問い質した。
「金や宝石なんかじゃある訳がないよな?
秘宝が金銭に纏わるのなら、狩人じゃなくて、
宝物荒らしがお似合いだものな!」
リュートの言いたい事は、金目当てのクエストならば、命知らずの狩人が狙わない訳がない事。
ならず者達が挙って向かうであろうという話。
だが、このクエストには誰も向かおうとはしない・・・
「じゃあ、なぜ?
何が遺跡の秘宝だと解っているの?」
ミコには秘宝が何かという一点が気がかりになる。相手がどうであれ。
「話によるとだけどねぇ、なんでも魔力を増幅できるモノがあるらしいのよねぇ。
だから普通の狩人には興味がないみたいなのよ」
そう。
タストン女史がいう事が本当ならば、一般の狩人には必要がない秘宝。
況して、相手が魔物だけでは無いのならば尚の事だ。
危険を承知で挑む様な物では無いのだろう。
「だが、誰かは挑んだんだろう?そして、失敗した・・・」
リュートがタストンが知っている訳に気付く。
「そ、そうなのよねぇ。魔法使いの連中が挑んだんだけど・・・
話を漏れ聞いた処に因れば・・・なのよねぇ」
言い難い事なのか、宙に視線を逸らしてタストン女史が教える。
「で、そいつ等は二度と挑戦していない。
と、いう事は。簡単じゃねぇってことだよな?」
狐モドキのリュートに睨まれて、タストン女史は口笛を吹く。
「こいつはヤバそうな一件だぜミコ、辞めた方が・・・」
幼馴染に忠告するリュートの声を遮る者の声が、頭上から放たれる。
「この一件、アタシにお任せぇ!」
ピンクの髪を靡かせて、階上から飛び込んで来たのは。
「あ、サエさん。おはよう・・・」
ミコが朝の挨拶を言おうとしたら。
「ミコが請け負わないとあらば!この<ピンクの翔龍>が貰うわ!」
横からしゃしゃり出たサエが奪い取ろうと手を出してきた。
「あらまぁアンタが?前に言った時には見向きもしなかったくせに」
言われたサエがぐっと身体を逸らせて声を呑み。
「あの時は・・・証文を採られる前だったから。
今はいち早く借金を返すのがアタシの使命。いいや、責任だもん!」
秘宝を手に入れて、それを高値で売り払おうと考えたのか。
それともそのまま逃げだそうとでも思ったか?
「どうするミコ?あなた達も請け負わない?
サエだけに任せるのは心配でもあるのよねぇ」
タストンが心配するのは後者の考えからか。
「タストンさん、この件ですけど・・・」
熟慮するミコが、リュートの顔を観ながら。
「うんうん、受けるわよね?」
「辞めとけって、ミコ」
二人は正反対の言葉をミコに投げかける。
「・・・サエさんはどうあれ、僕自身の為に受けようと思います」
賛意を告げるミコに、リュートは手を曳きたくなる。
「待てよ、ミコ!危ない橋は渡らないに限るって!」
「そうこなくっちゃ!それでこそ女神の使徒!」
案の定だとは思っていたのだが、リュートは心配顔でミコを観る。
「リュート、もし秘宝が手に入れば。
それだけで魔王との闘いに有利になれるんだよ。
どんな物かは判らないけど、少しでも強くなれるのなら・・・」
ミコはまだ魔王との闘いを諦めた訳では無かった。
闘って勝つ・・・唯それだけが帰る為に必要なのだと。
「そういうと思っていたよミコなら。
しょーうがないなぁ、一度言い出したら聴かねえんだもんなぁ」
ふっと息を吐く狐モドキのリュートを胸に押し抱き、
「分かっていたんだろリュートには。
だったら往こうよ、その遺跡とやらまで・・・さ!」
モフモフの毛を掻き撫でた。
「アンタ達に渡すもんか!秘宝はアタシのモンだからね!」
一緒に往くつもり満々のサエが断りを入れる。
「まぁまぁ、美しい同志愛よねぇ」
タストンがサエとミコ達、2人と一匹に向かう事を認める。
「冗談じゃねえ!どうしたらこんな男女と同志になるんだよ!」
リュートが心底、嫌そうに言うと。
「狐モドキ如きに言われたくはないわよ!」
男の娘サエも言い返して来る。
「まぁまぁ、行く前からそんなにいがみ合っていないでよ?!」
ミコが間を執り成そうとしたが。
「TSに仲をもたれるほど落ちぶれちゃいないわよ!」
自分の事を棚に上げたサエに言われてしまった。
「なっ?!君の方こそ!姿カッコは変態じゃないか!」
男の子なのに、女の子の服を着た変な奴だと言い返す。
「ふんっ!」
狐モドキの前で、二人のTSがそっぽを向き合った。
「どうしようもねぇーなぁ・・・」
これからのクエストを前に、リュートは幼馴染ミコをある意味心配していた。
・・・ある意味?
タストンの依頼を受けたミコとサエの翔龍騎の2人が向かうのは。
街からさほど離れていない遺跡だった。
簡単な依頼かと思いきや・・・
次回 第3章 キル・ラルの遺跡 Act2
君はトンでもない仲間と組んでしまった・・・そう!後悔したって始らないよ?




