翔龍騎伝 ドラゴン・ライダー! 第2章 紅き魔法石 Act7
女主が・・・転移者だったとは。
自らが転移者だと告げたタストンを見上げて、リュートは不思議に思う。
元の世界から来たというのに、なぜ宿屋の主になんて修まっているのか?
なんの目的があって此処に居るというのかと。
「アンタ達、私がなぜこんな宿屋の主になっているのか不思議なのでしょう?」
気勢を先んじて、タストンが話しかけてくる。
思わず同意の頷きを返す二人に、タストンが苦笑いを浮かべる。
「私も今はこんな辺鄙な場所の宿屋に修まっているけどねぇ、
本当の願いは大きな街の一流ホテルの支配人になるのが願いなのよ。
その為には稼がないといけない、だからギルドに加盟しているのよねぇ」
願いを叶えようとしているタストン。
「私は元の世界で旅館を営みたかった。
だけども願いは果たせそうにも無かったの、残念ながら・・・
だから、あの黒き魔法書に縋ってしまったのよねぇ、願いを果たせるならって」
ミコ達に告げられたのは、身に覚えのある黒い古文書。
姉の部屋に会った黒い古びた本・・・それの事なのか。
あの本からの光に巻き込まれ、この<エクセリア>へと召喚された。
ミコとリュートには初耳だったのだが。
「ミコ達は意図せず召喚されたと言ってたわよね。
その方が珍しい事だと思うのよねぇ、あの本に願わず召喚されるなんて」
グラスにバーボンを注ぎながらタストンが続ける。
「話を聴いて思ったんだけど。
女神に召喚されたと言ってたわよねぇ、その前に本に願いを込めたのかしら?
あなたの願いを本に伝えたのなら分かるけど、何も願わないのに召喚なんてされるのかしら?
召喚されるには願いを籠めなければいけない筈なんだけどねぇ?」
自分がそうであったのか、タストンは召喚される者の基本条件を教える。
「意図せず召喚されたとあれば、問題よねぇ・・・だって。
・・・だってこのエクセリアは願いを果たす為に存在しているんだもの。
異世界転移者の心を満たす為に存在する夢の世界なのだから」
タストンが語るのは、元の世界で訳アリの人間が縋る夢の話。
現実世界で果たされない夢を、追い求める者達が集う場所だという。
「私の姿・・・何歳に観えるかしら?
恥ずかしい話だけど、現実世界ではこう見えても50を越えていたのよねぇ。
お婆ちゃんとまではいかないにせよ、
あの年まで来ると夢は夢のままで終わる様な気がしていたのよ」
グラスを口に運んだタストンが、
「だから・・・手にしてしまったのかもねぇ。
今にして思えば、あのまま平凡な一生を終えていた方が良かったのかもしれないねぇ」
この世界へ転移した事を、今更ながら後悔しているかのように呟くのだった。
「タストンさんは、どうすれば元の世界へ帰れるのですか?
僕達は魔王とやらを倒せれば帰れるのですけど・・・」
話を聴いていたミコが、帰還方法を訊ねる。
「そうよねぇ、私の願いが成就出来たら・・・かしら。
本に願ったみたいに世界一のホテル王にでもなれれば・・・帰れるのかしらねぇ」
タストンは諦めたようにグラスを煽る。
エクセリアという世界で、一番のホテル王になれれば。
タストンは願いを成就出来た事になり、帰還する事が叶うと言った。
「つまりはねぇミコ。
この世界へ来た者が願いを成就する事が出来れば、放免されるのよ。
願った事を成就出来た者が出れば・・・この世界は終わりを迎えられる。
・・・この意味が解るかしら?」
小首を傾げて考えるミコの横で、リュートがいち早く理解してしまった。
「まさか・・・それじゃあ。
それじゃあ、未だに誰も願いを果たした者は居ないというのか?」
リュートの声にミコの身体がビクンと跳ね上がる。
「そう・・・この世界へ来た者は誰一人として還れない。
誰も本当の願いを果たせた者なんていないのよ」
リュートもミコも。
女主の言葉が、まるで死刑を言い渡す者の声にも聞こえてしまう。
<エクセリア>と云う世界の本当の有様が教えられて。
「思えば・・・あの黒き魔法書を手にしたのも。
願いを異世界で叶えようとした事も。
悪魔の仕業だったのかもしれない・・・今はそう思えてくるのよねぇ」
タストンは達観したかのようにグラスを傾ける。
「そんな?!じゃあ、僕達は永遠に帰れないの?」
抗う様にミコが叫ぶ。
リュートは叫んだミコの心も、現実世界に残してきた者へも想いを巡らせる。
「ミコ・・・諦めるのは早い。
俺はお前と一緒に帰ると誓ったんだ。
何としても魔王とやらを倒して帰る事だけを考えろ・・・いいな」
モフモフの狐モドキにされたリュートが諭すように云うのだが。
「そうねぇ、伝説では一度だけ魔王とやらが滅んだとあるから。
ミコにも出来るかも知れないわねぇ、魔王討伐とやらが・・・」
半ば諦めろとでも言いたいのか、タストンが明後日の方を向きながら話した。
「そう・・・僕は還らなくっちゃいけない。
ミコ姉を助けるのは僕なんだ、僕とリュートが姉さんを助けなきゃいけないんだから」
自分に言い聞かせるようにミコが断言する。
この世界へ召喚された偶然が、これ程にも重い事だとは思いもしていなかった。
だが、今初めて告げられたのは、誰も帰れた事のない異世界で闘い抜かねばならないという事。
帰れる方法が願いを果たす事に因ってのみというのであれば。
「アンタ達は意図せず召喚されたと言ってたわよねぇ。
魔王とやらを滅ぼすまでは還れないとも。
だったら召喚した女神は魔王を討伐しなければ神の世界へも戻れない筈。
世界のどこかにあるという神の居場所とやらに帰れなくなっているんでしょ?
その女神の力が与えられているのなら、もしかしたら魔王を倒せれるかも知れないわねぇ」
グラスを傾けていたタストンが、慰めるようにミコに言う。
「確か、伝説の勇者とやらもそうだったとか。
魔王を倒して帰還したのかは知らないけど、女神を宿した者だったっていうし。
翔龍騎だったのは間違いない事よ」
萬に一つ・・・いいや、それよりももっと確立が低いのか。
伝説となった勇者は確かに存在した、翔龍騎として。
「ミコは魔王を滅ぼせば還れる。
でも、この子は還ろうとはしないのかもねぇ」
横の椅子で気絶しているサエを指差し、望んで来た者の末路を教える。
「今のままだと、この子は還る事が出来ないのよ。
ミコ達と行動を共にし、魔王討伐を果たしたとても。
自分が王になるのが夢なんだから・・・この子は」
眼を廻している男の娘を指して、ため息を吐くタストンに。
「そう言っていたなぁ、帰るつもりはないみたいだね」
自分勝手な想いを抱いているサエの言葉を思い出してミコが答えると。
「今はそう。
だけど、ミコ達が願いを果たせることになれば・・・
この世界はどうなるのか解らない。
帰還者が出れば・・・世界が終わりを迎える事になるかも知れない」
タストンの望みはホテル王になる事。
サエの望みはエクセリアの王になる事。
果たされる事があるとすれば・・・
「もし。もしですよ?誰かが望みを叶えられれば。
このエクセリアは無くなってしまうのでしょうか?」
一縷の希望。
他力本願的な発言だとは思うのだが、頼らざるを得ないかもしれなかった。
「もし、タストンさんかサエの望みが叶えられれば。
エクセリアが無くなったとしたら、みんな帰れるのでしょうか?」
自分の望みが叶えられなくても、他の誰かが望みを叶えられれば。
世界が終焉を迎え、解放されるのでは・・・そう考えたのだが。
「それはその時にならなければ分らないわよ。
誰も知らないし、前の勇者が魔王を倒しても終わらなかったんだから。
勇者の望みが魔王討伐では無かったのかもしれないわよねぇ」
魔王を滅ぼした勇者がその後どうなったのかも伝えられてはいない。
その勇者の望みが魔王討伐では無かったのか・・・それさえも伝えられてはいなかった。
唯、エクセリアという世界が未だに続いているというだけが事実であった。
「じゃあ、帰還者が本当に居ないのかも伝えられていないのですか?
それ以前に、魔王がもう一度現れた事も伝えられていないのですか?」
ミコの質問に女主は首を振る。
「?魔王は必ず居ると?」
もう一度確かめる。
頷くタストンが、ミコの首飾りを指差し、
「ミコに魔力が備わっているように。
魔法石が魔物になる様に・・・必ず魔王は存在しているわ。
エクセリアには神が居る。エクセリアには魔物が存在している。
だとすれば、魔王は必ずどこかに居るの。
神と悪魔がいるように・・・どこの世界にも」
紅き魔法石が教えるのは。
エクセリアには魔力が存在する。
闇の魔物が居るのなら、それを支配する者もまた存在する。
それが何を意味するのか。
女神ミレニアが居るように、此処には悪魔が居る。
悪魔達を総べる者が居る。
「それが・・・魔王。
そいつを倒さないと帰る事ができないのか・・・」
リュートが呟いた。
自分達の仇を思い描いて・・・
2人は想いを新たにする。
魔王は<エクセリア>に間違いなく存在する。
魔王を倒せば、帰還が叶うと信じていたから。
紅き魔法石に込められた意味が、ミコにも判ってきたのだった・・・
いよいよギルドに加盟し、魔王を探し出す道を選ぶミコ。
翔龍騎ミコの戦いの日々が始るのだった。
これにて第2章も終了です。
次回から<第3章キル・ラルの遺跡>が、スタート!
ミコは魔王を探し出す事が出来るのでしょうか?
いやいや・・・まだまだヒントもないのだから・・・無理ポ・・・
次回 第3章 キル・ラルの遺跡 Act1
君は仲間と共にクエストに向かうのだ!← 命令・・・




