STAGE☆48 「ぼっち男と強敵」
「やっぱり魔族だよな」
しかも4人いる。
これまでを思い出してみれば、安定したゲートならば多数の魔人が通り抜けられるはず。
なぜいつもギブンがいるところに、魔族が現れるのかは分からないが、運命めいた何かがあるのだとすれば、これを無視するわけにはいかない。
「けど究明は後だ。まずはこいつらをどうにかしないと」
確かに魔物よりもずっと強い魔人だが、上位冒険者なら勝てるであろう相手。ギブンはすでに3人倒している。
しかし今回の相手は……。
「あの魔人は別格だな。油断したらやられちゃうかもしれない」
長髪の魔人が1人、魔力をゲートに注ぎ続けているようだ。
「また1人出てきた。そうか、奴らはゲートについて研究をしていると言っていた。もうまずい段階に入っているんじゃあないか?」
早くあのゲートを消滅させないと、時間を置くほどに、ダンジョンのマップが複雑になっていく。
「魔人と戦わせるには、ヒダカとライカではレベル不足だな。とは言ってもヴィヴィやコマチが暴れられるスペースはないからな」
ハクウとピントも戦闘スタイルを維持したまま。つまり向こうはまだ2匹を必要としている。
「1人でやるしかない!」
ギブンは特大の火魔法を打ち放った。
相手にギリギリまで気付かれないようにと、魔力弾の生成と発射を同時に行った。
「あの長髪、やっぱり強い」
火魔法は4人をバラバラに散開させたが、魔力を注ぎ込んでいた1人がゲートを護り、同時発射した小さな氷の針も巨大火球もろともかき消した。
長髪の周りにいた4人が一斉に襲いかかってくる。
「こいつら、以前の奴らより強いぞ!」
つまりゲートは、より強い魔人が通れるようになっているということだ。
そして人間界側からも、魔力を注ぎ続けることでゲートを安定させているのではないだろうか。
「あいつがゲート制御の役をしているんだな。もしかしてあいつが俺の知らない1人なんじゃあないのか?」
情報が正しければ会ったことのない魔族が1人いたはずだ。
「今はこの4人だな」
強くなっていると言っても、この4人はギブンの敵ではない。剣技だけで始末できるレベルだ。
長髪はギブンの実力を見てゲートを消した。おそらくはゲートの管理もあの魔族が担当しているのだろう。
「……!」
「逃がすかよ!」
後ろへ飛んだ魔族を追う。敵の向かう先に通路がある。逃げ道は確保済みのようだ。
一瞬でも相手の気を引ければいい。ギブンは子サラマンダーを相手の進路上に召還し、しかし2匹はあっと言う間にやられてしまう。
やられたと言っても、ギブンと繋がっている2匹は、スキルで傷を回復された後に、異次元へ戻っただけで倒されてしまったわけではない。
当分は呼び出せないだろうけれど。
「ありがとうな! おかげで届く」
ギブンは風魔法の障壁を5重にして魔族を囲った。
しかし長髪の魔人は魔力を右腕に集中。魔力の刃を生み出して、一振りでギブンの魔法を打ち消した。
「あんた強いな」
『なに、なぜ人間が我々の言葉を話す?』
「ちょっと、特殊な事情でね。どうだ、言葉が通じるんだ。少し話をしないか?」
『ふざけるな! ひ弱な人間の分際で』
「そのひ弱な人間の中でも俺は、お前の仲間を打ち負かす程度にはやれてるだろ?」
長髪は少しは興味を持ったみたいで、顔をギブンに向ける。
「女?」
『女でなにが悪い!? 私は魔王軍先遣部隊の隊長バサラ。お前が倒した一兵卒と一緒にするなよ』
「俺はギブン・ネフラ。ちょっと気弱な人間だ」
『ふん、誤魔化そうとしても分かるぞ。お前の強さは異常だ。私が本気を出して、無傷ではいられないほどにな』
村長ギルドマスターのモノとは違う。強力な鑑定能力を使う魔人は、ギブンのステータスを丸裸にする。
「数値だけで計れるものじゃあないさ」
土魔法を混ぜた風の障壁は、先ほどのように魔族の一撃でも破れやしない。
『ほぉ、流石はひ弱で姑息な人間だな。もう少し遊べんでやろうと思ったが、こんなに早く本気を出させるか、この私に!』
更に魔人の魔力が上がる。
強い魔力を注ぎ込み、強化した刃で簡単に障壁を破ってしまう。
「全力の障壁じゃあなかったけど、あれの斬れ味は恐ろしいな」
緊張が高まるギブン。
「ウエルシュトークのダンジョンで戦った魔族は、体中からあれを出してたよな」
『ハバカの事か。やっぱりあいつも殺されていたか。それもお前に!?』
ゆっくりと、剣先が後一歩で届く位置で立ち止まり、魔力の刃を突き出してくる。
『安心しろ、マルチブレイドは奴の固有技だ。あんなナマクラをいくら出しても、意味はないと常日頃から諭していたのだがな。私の言葉の意味に気付く前に死んだか』
油断してはならない。今の言葉が本当だとしても、鼻先に迫った剣が伸びないとも限らない。
『私の特技はこの剣一本。私の剣技に合わせたこの形状に固定する事で、強度を自在に変える事ができる。堅いモノでも脆いモノでも繊細に斬り刻めるぞ』
なぜこの魔人はギブンが聞きたい事を、勝手にペラペラ喋ってくれるのだろう。
『それが私の固有技だからな。ハンデとしては大きすぎるだろう。私はお前のような強者と戦いたかった。お前の出方を読める私が勝つのは間違いないが、少しは楽しめるように教えておいてやる』
本物の読心術か。確かに厄介な相手だが……。
「それじゃあ遠慮なく、俺もスキルを活かした戦いをさせてもらおう」
ギブンも剣を抜き、突き出されたバサラの剣に当てる。
『少しでも長生きしろよ。私を楽しませたなら、楽に殺してやる。せいぜい魔力を撒き散らして、ゲートの拡張を助けなさい』
ゲートは魔力の高いところに、発生するとは聞いたことがある。
おそらくギブンの索敵スキルは魔力の感知能力が高いので、魔族が出没しようとするゲートに引かれるのかもしれない。
『ようやく安定したゲートが完成したんだ。後はこれを拡張し、魔界と人間界を完全に繋げられるようにしないといけないからさ』
「そうか、それじゃああまり、放出系の魔力は使わない方がいいのかな」
『ちゃんと実力差を教えてあげる。手を抜いたりしたら、瞬殺だってことも』
バサラの自信の源が読心術であるのは違いない。
それなら先ずは、その自信を奪っておくのも悪くない。
『なっ!? いったいなにをした? なぜいきなり心の声が聞こえなくなった?」
魔獣同調。意識をハクウに飛ばし、そこからギブンの体を操作する。
今のギブンの中に彼の心は存在しない。ない心を読めないのは当然の事。
因みにハクウの体はハクウが動かしている。
ギブンはハクウの脳の一部を間借りしているだけ。魔獣と自分の体の二つを動かす必要はない。
ギブンはバサラがホンの一瞬見せた隙をついて、剣を上段から振り下ろした。
魔族の振るう魔力剣は、ハバカとか言う魔人のモノとは違い、物質化されていた魔法剣は重量もあって破壊力は抜群。
重さのある剣を振り回すと、手の振りは減速される。
「これで終わりだと思ったんだけどな」
『私の剣はオーラブレイド、手から離れれば消えて無くなる。魔力を込めれば直ぐ生み出すこともできる』
自慢しいのバサラは次々と手の内を明かしをしてくれる。
隙をつかれたギブンの攻撃への、バサラの対処の速度は異常だった。
きっと頭で考えているのではなく、反射的に剣を投げ捨てて、手を振り上げたのも本能のままだったのだろう。
「本当に強いな。オリビアさんに剣を習わなかったら、確かに瞬殺だったかも」
ギブンの剣を受け止めると、流れは鍔迫り合いとなるが、ギブンが力でバサラの剣を跳ね上げさせて、開いた胴に横凪を入れる。
バサラはまたオーラブレイドを手放し、再出現するオーラブレイドで、ギブンの首を狙ったカウンターを入れる。
「剣筋が読めないってのは、厄介だな」
両者は寸止めする。
『キサマもいい加減、心が消えたネタを明かせ! 私ばかりに手の内を喋らせて、恥ずかしくないのか!?』
「頼んで教えてもらったわけじゃあ、ないんだけどな」
『ネタを黙っていれば、殺されないとでも思っているのか? 魔力を垂れ流さないのなら、もうお前に用はないんだぞ』
読心術を退けた理由は知りたいが、いつまでも遊んでいるつもりもないようだ。
「……まぁいいか。俺は従魔を扱えて、俺の意識を従魔に預けられるんだよ」
スキルの一部機能を教えるくらいはいいだろう。
『はやり貧弱でも人間は侮れないな。四天王ラージ様が、私を先遣役に選ばんだのは、この時のためね』
「四天王? もしかして魔界では既に魔王が降臨しているのか?」
『ええ、今から4満月前にね』
勇者は魔王顕現後に召喚されるはず。4か月前に魔王が出現したと言うなら、もしかしてギブンは?
『大陸の南の果てに勇者が現れたという。早くゲートを完成させなければならないのだ』
勇者は他にいた。
驚きの展開ではあるが、責任が自分に掛からないのは非常に助かる。
『まさか神に選ばれた人間以外に、お前のような強者がいるとはな』
彼女は人の心は読めても、見えるのは頭に考えた事だけ。
ギブンがネフラージュ様のことを考えない限り、異世界人である事もバレることはないだろう。
『私が剣士しか使えんと思っているなら、大間違いだぞ。さぁ次の一撃で終わらせてやろう』
奥の手があるなら、黙って掛かってくればいいモノを!
「因みにどんな攻撃手段が?」
『……流石に私も、そこまで考え無しではないぞ』
もしかして魔族は、嘘を吐くのが苦手なのかもしれない。




