STAGE☆121 「ぼっち男は仲間を信じる」
ギブンの答えを待つ3人だが、いつまでも時間をくれるわけではない。
「俺は誰も選ばない。いや、選べないよ。だから俺1人で3人の相手に……」
最後まで言い切る前に飛び出してきたのはブレリア。
戦斧を今まで以上の勢いで振り下ろす。
「あたしらを嘗めてんのか!?」
剣を取り出して3人に対峙するギブンは、ブレリアからの初撃をなんなく躱すも、間髪入れずにオリビアが死角から襲ってくる。
転移魔法で回避するギブンだが、マハーヌはぼっち男の魔力波動を察知し、出現先にレーザーのような水流を撃ち込む。
その攻撃も読んでいたギブンは、魔力障壁でマハーヌの攻撃を防ぎきる事ができたが、追い打ちを掛けてきたオリビアのスピードに体はついて行けず、右腕を斬り落とされてしまう。
「……トンでもない回復能力ですわね。あなたのその鼻につく自信を、どうへし折れるものかしら」
魔力治癒はギブン自身が意識せずとも自動で発動するスキルだ。
魔力値次第で瞬間的に再生する事もできる。
ただ腕一本となると消費するマナもハンパではない。これ以上のダメージは避けなければならない。
「初お目見えがここになるとはな」
対勇者戦に用意した秘密兵器を喚びだした。
「ヒダカとライカだと!?」
従魔を喚んだ事で、ブレリア達はギブンが何をしようとしているかを察して、自分たちも相棒を喚び出す。
「それがあんたの切り札かい? 同じ力があるあたし達に、それで勝てるとでも?」
3人は従魔召還融合をしてみせた。ギブンよりも早く。
「きゃあ!?」
女性3人分の悲鳴と、3人分の倒れる音。
勝者は1人立っているギブンでキマリとなった。
3人が目覚めたのは人間界に建築された魔王城の医務室だった。
今の3人に魔族を妥当しようと言う意志はない。
「もう俺を見ても斬り掛かってこないな」
「ホント、どうかしてたよ。あんたをあんなに憎んだなんて」
「ええ、本当にありえないことです」
「ギブン、あなたがジオウと戦ったと聞いてからなのですよ。もうなにがなんだかなのですよ」
彼女たちを心配して従魔が寄り添い、悲しげな声を上げる。
「お前達に感謝だな。お陰で正気に戻れた」
喉を撫でられてゴロゴロいうハクウ。
オリビアもマハーヌも従魔に感謝する。
なんて事があり、安心していたのだけれど。
「ちょっと、話が違うじゃないか!?」
勇者パーティーはジオウ・イイセとガランド・オーガスト。
ミラウ・パンヤ、ララミヤ・ノーツ、コアンナ・フララ。
そしてネフラ・シェレンコフ(オリビア)、ベルエル・グレラ(ブレリア)、フラナスカ・オーセン(マハーヌ)が魔王城に突入してきた。
パーティー登録されなかったレイズ・レブルス、ルーラン・レブルス、フスフ・ウルラ・ラトラタンは魔王城の外で、他の協力者を指揮している。
「南側は最もランクの高い魔物が棲息しているが、ギブンが作った人道があるからな。どこよりも進軍しやすかったのだろう」
勇者パーティーが魔王城に入ったのを見送り、竜人兵団を任されたビギナには、南方にいる人族軍の戦力を削ぐ、決して無理はせず、可能なら敵も殺さないと言う、難易度の高い指令がバサラから託された。
「北東側には四天王の御方々が魔王軍を指揮して防衛に当たっている。悪いがこちらはお前に一任すると言う事だ。頼んだぞ」
「いえ、私こそ。魔王城をお願いします。では参ります」
ビギナを送り出し、バサラは城の中に戻る。
「用は済んだのか?」
「……お前こそ、勇者と一緒にいなくていいのか? ベルエル・グレラ」
勇者のスキルで洗脳に近い状態にあっても、本人の記憶が奪われている訳ではない。
「役割分担は完璧さ。狙い通り、お前らをギブンから遠ざける事ができた」
「あたしやネフラが相手じゃあ、ビギナは役不足だ。あんたがあたしを選んだって事はネフラの、オリビアの相手はギブンなんだろう? それなら大勢に変化はないな」
残りの戦力はエミリア達とテンケ。全員でもフラナスカ(マハーヌ)に勝ち目はない。
「おっと、魔将軍相手に、他を気にしている余裕はないか」
「あんたとは嫁ランキングバトルで戦う機会が回ってこなかったからね。オリビアとの鍔迫り合いも捨てがたかったが、ブレリアみたいな、馬鹿力のヤツとも一度やってみたかったからな」
「はん、あたしの戦斧でちゃちい剣なんざ、あっさり粉々に砕いてやるよ」
「この剣はラージ様の魔剣ベレンクランデを修復する際に、エミリアが複製し、私用に双剣となった逸品。そう簡単には折れんぞ」
「じゃあ、思う存分味わいな!」
「ぐ、んんん!?」
高い位置から振り下ろしてきた戦斧を、やっとの思いで受け止める。
受け止めはしたが、しかしそれは双剣をクロスに合わせ、全身を使ってやっと。
「そんなデカブツを、なんて速度で振り回しやがる!?」
「なんだ、始まったばかりだってのに、もう降参か?」
「いいや、初っ端からかましてくれるもんだから、スタミナ配分はしなくていいのかと、思っただけさ」
パワーでは圧される。それは分かっていたが、バサラは一度受け止めてみたかったのだ。
だけどここからはバサラの見せ場、オリビアよりも勝るスピードで走り回られて、ブレリアは全力どころか斧を大きく振るう事もできなくなる。
「ああ、面倒くせぇ、バサラてめぇ~、止まりやがれ!」
スピードでバサラが圧倒しているが、やはり戦い慣れしているのはブレリアの方だ。短い双剣を斧と籠手できれいに捌き、当たりはしないが反撃までしてみせる。
「その大きな斧をなんで片手で振り回せるんだ?」
「そうでもしてみせないと、あっ、と言う間に斬り刻まれるじゃないか」
バサラにしてみても、あと一歩近づければという思いがある。皮一枚に届かないもどかしさは同じだ。
これでは剣に魔法を付与しても意味がない。身体強化もいつまで続けられるものか。
「四天王相手には、うまく立ち回ってたじゃあないか」
「……私にそれを言わせるのか?」
このままでは埒が明かない。できればまだ自力でどうにかいい所を見せたかったが、ジャガービートルのアードを召喚、出し惜しみなく融合合体する。
「これでキメルよ!」
バサラの手には愛剣。さらに背中から伸びるアードの六本足も、それぞれ鋭く長い刃物のように変化する。
「八刀流ってところか。お前は大道芸人かよ」
魔人族であるバサラには、人間にはない膨大な魔力がある。融合して能力を底上げする力はマハーヌに次ぐ。
「練習の甲斐あって、こいつに私の魔力をありったけを与える事ができるようになった。こいつの足は私の体の一部だ。見た目だけの虚仮威しじゃあないからな」
言葉通りにバサラは八本の剣を効率よく振り回し、ブレリアは防戦一方となる。
「くっ、鬱陶しい!?」
目一杯戦斧を振るうが流石に追いつかない。なんとか防具のあるところでバサラの攻撃を受け流すが、衝撃は体に伝わってくる。
「アードの剣戟はさほど強くはないが面倒でしょうがない。しかもバサラがまたスピードアップしてやがる。ハクウ! あたしらもやるぞ」
本意ではないが、これはバサラの狙い通り。ブレリアがハクウと融合すれば、勇者との繋がりは断たれるはずだ。
「さて他の様子でも確かめに行こうか」
ブレリアが仲間に戻れば、勝率は一気に跳ね上がる。バサラはビギナの手伝いをしに行こうとするが。
「おいおい、勝負はまだまだ、これからだろう?」
融合したブレリアは戦斧を片手で自在に振り回し、機動力も跳ね上がり、パワーも更に上がって、バサラとのスピード差を埋める。
「な、なんでだよ。お前、ブレリア・アウグハーゲンじゃあないのか!?」
「その名前は覚えているさ。けどお前の名は? と聞かれれば、ベルエル・グレラと答えるね」
冗談でも受け狙いでもない、気を抜けば一瞬でやられかねない一撃を、八本の剣でようやく受け止めたバサラは、戦慄を覚える。
「バサラ・ティラムーン、お前まだ奥の手を残しているんだろう? それを見せずに終わりたくもないだろう。あたしも取って置きを見せてやる。あたしのは返し技だ」
最後の勝負だ。全てをかけて打ってこいとブレリアは言う。
バサラは流されるまま、剣を構え直し、一度姿勢を低くして力を溜め、ブレリアの視界から完全に消える速度で駆け回った。
これが最後だというブレリアの言葉に従い、限界を超えるハイスピードで、ある一点を目掛けて相手の背中から斬りつけた。
バサラ双剣が一本へと変化し、更にアードの六本の剣も吸収して光り輝く大剣となる。
無防備な背中に、バサラは大剣に残りの魔力を全て注ぎ込んで振り下ろす。
バサラのスピードがあっても避ける事はできないだろうタイミング。防御力がどれだけ高くても受け止めきれるはずもないパワー。剣は届かなとも魔力はブレリアを貫く。
「しばらくの間、寝ててもらうぞ」
背中から斬りつける手ごたえはあった。だがブレリアは振り返り反撃に転じる……。




