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私室でぼんやりと煙草を吸っていると、ルゥが不機嫌そうに入って来た。私は煙草を潰し消し、ルゥにゆっくりと何も言わずに抱きつく。ルゥは分かってるのか何も言わずに強く抱きしめてきた。
少しの静寂の後、ルゥが口を開く。
「ディラン殿にはもう二度と近づくな。もっと警戒心を持ってくれ、嫉妬で頭がおかしくなる。招き入れた使用人には厳重注意をしておいた」
「そう……ねぇ、ルゥ?私ね、時々焼き尽くされそうになるの……『私もルゥもいつか狂って同じになる』って。証明出来ない愛と、大事な人を失うかも知れないって……ルゥには今私が考えている事が分かる?」
ルゥは私の目を真っ直ぐ見て、優しく頭を撫でて来る。そのままルゥに抱き上げられ、愛用のソファに二人で沈み込み、私はルゥの上に乗る形になった。
「また下らない事でも考えてるんだろ?いつも言ってるだろ、お前は考え過ぎだって」
私はその言葉に嗤い、起き上がり馬乗りになる。そして両手を優しくルゥの首を絞める。ルゥは私を見上げ、優しく私の顔の輪郭をなぞりながら本当の言葉を放った。
「殺してやりたい……だろ?」
「ふふっ……正解」
「……愛しているのにその感情が多すぎて処理が出来ない。大切にしたいのに傷つけて壊してやりたい……全て与えたいのに、全てを奪ってしまいたい。離れていたくないのに逃げ出してしまいたくなる……ナディア、お前に抱く感情が恐ろしくて耐え切れない……俺も大概狂ってるな」
「……大丈夫だよルゥ。約束して?これからの人生を全部私に頂戴?私の為に生きて、私の為に死んで。私が死ぬまで愛して、死んだら私の全てを喰べて?」
「……ああ、分かった。約束だ」
なんて甘美な感情だろう。もう、認めよう。ルゥとなら何処までも狂っても良い、そう思ってしまえる。私はもう父親と同じものに成り下がってしまったのだろうか。この感情は本当に愛なのだろうか。いや、愛と呼ばずになんと呼べば良い感情なのだろう。
見つからない答えを探しても意味など無いのに、私はいつも答えを探してしまう。ただ、私達二人の間にある感情は、誰にも邪魔はさせない。ルゥから伝わる温もりは本物なのだから。
優しくルゥの首を絞めていた両手を離し、ゆっくりと抱きつくようにルゥの上に全てを預ける。そして私の邪魔をしようとしている、ディランをどうしてやろうかとほくそ笑んだ。
「おい、また馬鹿な事考えてないか?」
「私とルゥの仲を邪魔する人は皆んないなくなれば良いのに」
「その言葉は嬉しいな」
ルゥは私の髪を弄び、ゆっくりと髪を梳く。ルゥの心臓の音を聞きながら目蓋を閉じると、いつの間にか眠っていた。
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牢獄のような伯爵家の私室のソファに私は座っている。また夢を見ているのか。ソファに座る私の後ろから、父親が私を抱きしめ囁く。
『結局、私とナディア、お前は同じ穴の狢なんたよ』
「そうかも知れないし、違うかも知れない」
『お前を全てを理解出来るのは私だけだよ。あの男を殺してしまおう。永遠に自分のものだけにする為に』
「本当に殺してしまったら、もう温かな感情さえ消えてしまうから嫌よ」
『ナディア、永遠の愛は相手を殺す事で手に入れられる。人は変わってしまう、だから変わってしまう前に殺して閉じ込めてしまおう』
「消えて。もう貴方の言葉なんて聞きたくない」
『それは私の言葉が正しいからだろう?』
父親は嗤いながら耳元で囁く。ああ、夢にまで出てくるとは最悪な夢だ。まるで悪魔と話している気になる。
「永遠なんてどんなに求めたって手に入らない。ただ、お互いが生きてる間どんな形であっても想いあってれば良いって今は思うの」
『哀れな私の愛しいナディア。いつかお前も私と同じ場所へ辿り着くはずだ』
「そうなったら私は私を殺すわ」
目の前のテーブルに置いてある拳銃を手に取り、銃口を自分の頭に突き付ける。私は嗤いながらその引き金を躊躇なく引こうとすると、腕を掴まれる。私の腕を掴んだのは夢の中の父では無くルゥだった。夢の中でもルゥは私を助けてくれるのが嬉しくて、優しく微笑んで拳銃から手を離した。
「ナディア、起きろ」
「……ルゥ?」
「魘されてたぞ、嫌な夢でも見てたのか?」
カーテンの隙間から見える空は既に闇夜だ。どのくらい眠っていたのだろう。目蓋を擦り、いつの間にかベッドで寝ていたのはルゥが運んでくれたのだろう。
「嫌な夢だったけど、夢の中のルゥが助けてくれたよ?貴方はいつだって私を助けてくれるのね」
「そうか?」
「うん、私……ルゥで良かった」
「なんだ、いつもより素直だな」
「今はそんな気分なの。ねぇ、ルゥ。私の手を握って眠ってくれる?」
「喜んで、お姫様」
「ふふっ、ルゥは王子様というより騎士みたい」
ルゥは笑いながら、私の手を大きくて優しい手を絡ませてくれる。きっと今夜は嫌な夢はもう見ないだろう。
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