表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/56

25



ソファに寝転び煙草を吸いながら揺蕩う煙を見つめていると、ルゥが顔色が悪そうに部屋に入って来た。


「ナディア……王太子殿下に何を言った?」


「さあ……?なんだったかな。ああ、そうだ……つまらない人間に成り下がるのかとかなんとか言った気がする」


「殿下が王妃を毒殺した。内密に処理はしたが、殿下がお前をお母様と呼び、俺のことはお父様と呼ぶんだ。狂わせたのはお前か?」


「狂わせた?私は囁いただけだよ?毒を食らわば皿までってね」


私は煙を吐き、揺蕩う煙を指でなぞる。煙は私の指から逃げる様に動き、消えてゆく。まあ、しかし幼いからこそ純粋な狂気はタチが悪い。さて、どうしたものかと嗤いながら煙草を吸う。甘い毒の味を覚えてしまったルネス殿下に、理性と言うものを教えねばならないか。それがルネス殿下を変えた責任というものだ。非常に面倒だがしょうがない。


「明日、ルネス殿下に会いに行くよ。話してみるから」 


「俺も同席するぞ。また何を起こすか分からないからな」


「私が?それともルネス殿下が?」


「どちらもだ」


その言葉にクスクスと嗤いながらルゥを見上げる。ルゥはソファに寝転ぶ私の額に口付ける。私から煙草を取り上げもみ消し、私を抱き上げ寝室に向かった。


ベッドへと下されルゥにしては乱暴に私のドレスを脱がせてくる。そんなルゥの頭を抱え込み、優しく問いただせる。


「どうしたの?何をそんなに焦っているの?」


「お前が次々と人を誑し込むからだ。こちらの身にもなってみろ」


「私には一切そのつもりは無いんだけどね」


「自覚しているのか無自覚なのか……頭が痛くなる」


「それよりルゥ?今は何もかも忘れて一つになろう?……楽になれるよ」


「……そうだな」


ルゥの頭を撫でながら嗤いを零す。快楽は人の思考を停止させ、欲望だけが体を支配する。まるで理性を失った獣の様に。


これで良い。ルゥは私だけを味わえば良い。少しずつ私の甘い毒に犯され、私だけのルゥになれば良い。だから私は蜜を垂らし続ける。今だけは合理性も何もかも忘れて快楽に酔いしれよう。




ーーーーーーーーーー



王宮の庭でルゥとルネス殿下、私のお茶会が始まる。ルネス殿下はソワソワとしながら私を上目遣いで見てくる。私は無表情にルネス殿下に告げる。


「ルネス殿下……不都合を生じる可能性があるものは、いつか必ず不都合を生じます。次からはもっと気をつけましょうね?」


「はい……お母様……」


私は優しく嗤い、ルネス殿下の頭を優しく撫でる。国に害をなす存在を排除する行動は素晴らしいものだ。それが十歳の少年が自ら実行するとは、感情とは恐ろしいものだ。



「ルネス殿下、人間という存在が、合理性だけでは動かない、おろかな生き物であるということを知ってください」


「おろかな生き物……?」


「いかに歴史が進もうと、人間は時として合理性よりも、感情を優先するおろかな存在であるということを、感情にとらわれた人間は、打算も、合理性も、損得さえ抜きに、どこまでもあらがい続けます。そう、ルネス殿下の行動がそうです」


ルネス殿下は俯く。涙を耐えている様だ。だが、これを知らねばただの狂人に成り果ててしまう。


「だからこそ私はルネス殿下に申し上げずにはいられないのです。感情を飼い慣らす事を覚えてください」


「感情を飼い慣らす?どうすれば良いのですか」


「思考をし続けてください。今はまだ難しいでしょう。ですが、感情を飼い慣らす為には理性を失ってはいけません。まあ、私も人の事をあれこれ言える立場ではないですが……」


苦笑いをしルネス殿下を優しく抱きしめる。しがみつく様にルネス殿下も私に抱きつく。


そんな私は、精神的に無防備になった相手を説得すべき。そう主張した人間は悪魔的天才だなと頭の片隅で考えていた。


そんな私達をルゥはこめかみを抑え悩ましげにしている。


「お母様……僕、頑張ります!!だからその……また歌を歌って欲しいのです。新しい歌を……」


「良いですよ、さあ此方へ。ルーファス様も私の横へどうぞ」


地面に座りルネス殿下に膝枕をしてあげ、私はルゥの肩に頭を預け歌う。




『言の葉 の彼方に黒い影がゆらめく


何よりも厭わしい


探さないで ここは僕だけの居場所

優しさは無垢な刃 救いなどいらない


崩れ落ちる忘却の砂


ささめく小道の奥に 黒い足跡が続いてる


踏み潰された花も 砕かれた希望も 


どこまでも残酷に


奪わないで もう二度と この楽園を

憐れみは無知な刃 与えられた明日などいらない


壊さないで 僕の楽園を 永久に

愛しさは無垢な刃 僕を縛る 君はいらない 』





優しく子守唄の様に壊れた歌を歌う。ルゥも目を閉じて聞き入っている様だ。ルネス殿下は母親に甘える様に私のお腹に顔を埋める。まるでその光景は仲睦まじい家族の様だ。中身は歪でツギハギだらけだというのに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ