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※誤字、脱字多かったらすみません。
ルゥが部屋から出て行き、私は先程と同じ様にシーツ包まりながら笑みを浮かべ、思う。
私は覚えてしまった、ルゥという甘い蜜を。
この蜜はいつまであるのだろう。このまま蜜を貪り続ければ瞬く間に無くなってしまうのだろうか。満ち足りている筈なのに、吐き気を俄かに催すのに貪るのを止められない。確かに好ましく感じられたこの蜜が毒のように感じる時がある。だけど私は更に貪り続けてしまう。どうしてなのかは自分が一番分かっている。
視て、聴いて、嗅いで、触れて、そして舌で味わった。何にも代え難く尊い甘い蜜。私が厭わしく思っていたもの。
手に入れよう、手に入れようと求め続けていると、いつまで経っても心は満たされず、手に入れるまで安心できない。そして、例え手に入れたとしてもまたそれがある故にたちまち心が乾ききって、今ある有り難いものに気付けずに、自分と他人を比べて苦しくなる際限無き甘い毒。
蜜の味を知らなければ誰も求めたり、奪い合う事などしない。だが、蜜の味を覚えてしまった私はもう戻れない。ルゥという蜜を誰にも渡したりするものか。一滴たりとも渡さない。
ああ、駄目だ。欲望のまま貪る、これでは獣の様ではないか。私は蜜を知ってしまった獣をどう飼い慣らせば良いのか、煩わしく、狂おしく、愉しくてしょうがない。
クスクスと笑っていると、ドアをノックする音が聞こえた。シーツから頭を出して返事を返すと、ジェシカが悩んだ様子で手紙を持ちながら寝室に入って来た。
「お嬢様、マルセル様からお手紙が届いていらっしゃいますが……どうしますか?」
「大丈夫だよ、ジェシカ。読むから頂戴」
「……お嬢様はどうして……ここまでされたのにフローディア様を気にかけるのですか?」
ジェシカは、緊張した面持ちで私に問いかけてきた。それもそうか、普通なら自分を刺した異母妹を気にする方がおかしい。私はジェシカの問いに何も答えず、微笑みながら手紙を受け取った。
マルセル様からの手紙にはフローディアの様子が細かく書かれており、よくフローディアを観ていると感心してしまうほどだ。
「……お嬢様、答えて下さい。最近のお嬢様は何を考えているのか分かりません……。私は不安なのです。お嬢様が何処か遠くに行ってしまいそうで……」
「……ジェシカ、人間の感情って不思議だよね。どうでもいいと思いながらも心の隅で気にしている。複雑で曖昧で矛盾している。それが答え。誰しもが何かしら抱えている感情じゃない?」
「……そうですね。申し訳ありませんでした」
「まあ、フローディアに関してはマルセル様が律儀に手紙を寄越してるだけだから気にしないで。私は返事もしないつもりだし、フローディアに私は必要無い」
マルセル様からの手紙を破り、ジェシカに渡して燃やすように言う。今の私は、私の獣を飼い慣らす事で精一杯なのだ。こういう時はほろ苦い煙草を吸って気を落ち着かせるのだが、いつになったら吸えるのか。私の獣が牙を剥く前に吸いたいものだ。
「お嬢様、少し聞いた話なのですが」
「なあに?」
ジェシカが淹れてくれた紅茶を飲みながら話を聞く。
「近々、ルーファス様のお父様とお母様がいらっしゃると噂に聞きまして」
「……そう」
「あくまで噂なのですが、お嬢様にも伝えておいた方が良いかと思って」
「ねえ、ジェシカ」
「はい」
「……家族ってどういうものなんだろうね」
「……お嬢様……」
私は知らない。分からない。家族とは何なのか。ルゥはどんな環境で過ごしてきたのか気になる。ルゥの家族が知りたい。その反面、私の父や母、継母が頭をよぎり、なんとも言えない感情が入り混ざる。ジェシカも言葉に詰まり、複雑な表情をしていた。
でも、私の『家族』だったものとは違うだろう。
私はルゥの家族の何に期待をし、何に怯えているのか、分からない。ルゥと婚姻をすれば分かるのだろうか。それとも分からないまま、また『家族』になるのだろうか。
それ以前に、私はおかしい。そんな私を家族として受け入れてもらえるのか。そもそも私は受け入れてもらいたいのか?……分からない。これだから感情とは厄介なものだ。
「噂が本当なら早く元気にならないとね」
「……そうですね!隠れて煙草は絶対駄目ですよ!」
「じゃあ堂々と吸えば良い?」
「そういう事じゃありません!」
そう言い合いながら、今だけは厄介な感情に蓋をしてジェシカと笑い合う。いつかはこの厄介な感情が消えればいいと思いながら。
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