公爵視点
※誤字、脱字多かったらすみません。
執務室に置かれていた手紙を内容が分かっていながらも溜息をつきながら開封する。これでもこの手紙は王家からのものなので、無視は出来ない。
『
ナディア・エヴァンズ伯爵令嬢をルーファス・ラスウェル公爵様との婚姻後、国王陛下の公妾として迎入れたい。陛下もそれを望んでおられる次第であり、より良い返事をお待ちしております。見返りも相応のものを用意します。
』
この国には側室の制度がない。だが、公妾という名の公式的な愛妾、愛人の制度がある。公妾は内政、外交、戦争、人事、芸術などの運営維持に対する大きな発言力を持つことをもつこともあり、単なる王の個人的な愛人としてではなく、社交界へも積極的に出席し、常に社交界の花形であり続け、特に公妾が主宰する贅沢なサロンは他国に対して、国威を示す役割をも担っている。ナディアの容姿と性格ならとても良い駒になるのだろう。
政治的な意味合いが強く婚姻した王妃よりも、本当に気に入った公妾の方が国王に対する発言権は強い為に、国王を動かす権力を有し、外務省とは異なる形で持ち込まれる内政、外交問題の窓口としての公設秘書兼外交官的な役割を果たし、それゆえに情報網も極めて正確で、国王や王妃が不幸な王室スキャンダルにまみれることを未然に防止するという、体を張っての防波堤の役割さえも担っている。
寵愛を受け、もちろんその過程で王妃や他の王族から不興や嫉妬、妬みを買ったり、有力な王侯貴族間の権力闘争や社会情勢不安に巻き込まれたりしてしまい、他の王侯貴族や民衆からの恨みや憎悪を一身に背負うこともある。
未婚の令嬢では公妾にはなれない。だからこそ俺と婚姻を交わした後、ナディアを公妾にするつもりなのだろう。ナディアを愛人にした挙句、王室に何かあった時には使い捨てられるなんて。だが、絶対にナディアは渡さない。陛下にはナディアを諦めてもらわなければならない。慎重に、そして上手くやらねば。
もしもナディアが公妾になって陛下の子を孕んだ場合、借り腹はこの国では無い。だからその子供は俺の跡取りとして育てられる。政治的な事なら別に良いのだろうが、冗談じゃない。ナディアを俺から奪う事は誰だって許しはしない。
机の上に置いてある煙草を取り、火を付け煙を燻らせながら策略を巡らせる。じわじわと追い詰めながら陛下には堕ちてもらおう。
この事をナディアは直ぐ気づくはずだ。だったらいっそのこと全て話しても良いが、独りでなんとかしようと行動する可能性が高い。だから今はまだ何も言わず療養している間にこの糞ったれな問題を片付けよう。
煙草の煙を吐き出しながら、手紙を灰皿の上に置き、吸っていた煙草の火を押し付ける。手紙はじわじわと煙草の火を広げながら黒い灰になってゆく。
陛下には堕ちてもらう、だが後釜は必要だ。王太子はまだ十歳になったばかりだから、まだ早い。さて、王兄殿下である父上に重い腰をあげてもらうか。父上は王など面倒だと言い、能力はあるのに早々に王位継承を捨て弟である現在の王に譲った変わり者だ。
今は公爵家の領地で畑でも耕してそうだが、父上も母上も近々ナディアに会いに来るだろう。あの人達もナディアの境遇を知らせている為、会わせても大丈夫だろう。寧ろ会いたがっていたのだが、ナディアが落ち着くまでと断っていた。特に母上には会わせたくない。母上は娘が欲しかったと長年言い続け、ナディアにあれこれそれと、ドレスや装飾品等の山を贈りそうだ。
ナディアはドレスや装飾品は嫌いではないが、本の方が好きなのだ。知識と思考の海に溺れ、理性で狂気を飼いならし、そして周囲を色々な視点から観察する。其れが時々恐ろしく感じてしまう自分がいる。ナディアだけが、周囲とは違う次元にいるのでは無いかと。確かに傍にいるのに。手を握れば少し冷たい手を握り返してくれのに、不安が溢れる。
ナディアと出逢ってから、俺は俺らしくない行動ばかりだ。ナディアの見た目は神から愛された天使や妖精の様な美貌なのに、ナディア自身は何を考えいるか分からず、歪んで妖艶で蠱惑的な小悪魔の様で俺の心を掴んで離さない。そのアンバランスさも魅力的なのだろう。陛下が欲しがる気持ちも分からないでも無いが、ナディアはもう俺の腕の中だ。
煙草の煙で肺を満たし、開け放たれた外へと煙を吐き出し逃がしてやる。ゆらゆらと揺らめき空中に見えない毒を撒き散らしながら溶けてゆく様はまるでナディアのようだと思った。
だが、何処に行こうと最後は俺の腕の中に帰ると、俺の傍に居たいと言った。俺はその言葉を信じる。何故ならその言葉はナディアの本心だからだ。
手紙の燃えかすが残る灰皿に、吸っていた煙草を押し付けもみ消す。
これからとんでもなく面倒な事をするつもりなのに、ナディアの事なら喜んで片付けてしまう俺は、周囲には狂って見えるのだろう。
公妾=公式的に認められた愛人・愛妾のこと
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