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※誤字、脱字多かったらすみません。
「フローディア……どうして……」
「マ、マルセル様……」
扉から入ってきたのは子爵家のマルセル様、フローディアの婚約者。そう、私はマルセル様に私の誕生日に伯爵家へ来て貰うように手紙で伝えていた。フローディアという人間の本当の姿を見せる為に手紙を出した。そしてマルセル様という人間を見極める為。
脇腹の激痛に脂汗を流しながらも無駄な出血を抑える為に馴染み深いソファに横になり、マルセル様に問う。
「……マルセル様、これが本当のフローディアです。この娘は死んだ両親の被害者であり、私にとっては加害者です。……貴方はそれでも血に塗れたフローディアの手を取れますか?傍にいて支える事ができますか?」
私はマルセル様の目を観察する様に見ると、マルセル様は一度目を瞑りゆっくりと目蓋を持ち上げた。その目は恐らく何があってもフローディアを支えるという決意だろう。この人なら大丈夫だ。
マルセルはフローディアに近づいて私の血で塗れている手を取り握り締め、抱き寄せる。
「フローディア、僕は何があっても君の傍にいるよ。支えてみせる」
「でも……わ、わたし……」
「……はい、ラブロマンスはここまで。二人共さっさとこの屋敷から出ていきなよ。直にルゥ……ルーファス様が来ると思うから。ルーファス様が怒る前に早く行って」
「お姉様……どうして態と刺されたの……避けれたはずなのに……」
「……秘密。……フローディア、貴女の人生に私は必要ない。悩んで苦しんで迷って、幸せなれる様に努力しながら生きて死ねば良い。そして、私の人生にも貴女はいらない。……早く行って二人で話し合いなよ」
「お姉様……」
「フローディア行こう。ナディア様の言っている意味は分かるだろう。僕達が今しなきゃいけない事は、一刻も早く此処から立ち去る事だ」
そう言ってマルセル様は自分の上着をフローディアの肩に掛け、血に塗れた手を引いて部屋から出て行った。ルゥはマルセル様は貴族に向かないと言っていたが、強ちそうではないと私は思う。
ナイフが抜けない様、動かない様に裂いたドレスの布で固定して楽な体制を取っているおかげか出血は少ない。何よりも事前に飲んでいた毒には止血剤よりも強い作用がある。その代わり毒は毒なので、解毒薬を飲まなければ時間が経てば死ぬが。
やはり赤いドレスを着てきて正解だった。私の血の色が染みていても分かりづらくて綺麗なまま。スカートを破ったのもある意味スリットのようでお洒落だ。脇腹にナイフさえ刺さってなければ完璧なのに。
この姿の私を見たら、またルゥは泣きそうな顔をしてしまうだろうか。それとも怒るだろうか。取り敢えず、後始末は任せたよルゥ。
私は分かっていた。フローディアが私を殺そうとして、私に殺される事を望んでいるのを。だけど、私はフローディアを殺さなかった。私もこんな状態だが死ぬつもりは無い。二人とも生きる。これが私の答えだ。態と刺されたのは、下手に揉み合って変な場所に刺さらない様にだ。
悩んで、迷って、苦しんで、それでも生きていくのが人生だ。そんな人生にもきっと幸せがあるはず。後はフローディア、貴女とマルセル様で見つけて。幸せは目に映らないけど、案外傍にあって気付かないものだ。それにフローディアも気付ければ良いが。まあ、私だってまだ自分の感情が飲み込めていないのだけど。
何にせよ、これで私とフローディアとの関係は異母姉妹という名前だけの他人になっただろう。
それにしても脇腹がジクジクと痛く、脂汗が流れ呼吸も苦しく、寒い。エルヴェも刺された時こんな感じだったのだろうか。出来れば二度と体験したくない痛みだが、あの風邪薬の味を思い出せばまだ痛みの方がマシかもしれない。
ソファの上に横になりあの頃と同じ様に窓の外の月を見る。やはり今日は母が死んだ日と同じような恐ろしいほど綺麗な月だ。
私の誕生日に母が首を吊って死に、私の誕生日に私は毒を飲み脇腹を刺され死にかける。なんとも滑稽な話だ。
ねえ、ルゥ。
早く来て、凄く此処は凄く寒い。貴方の暖かさが欲しい。もう目が霞んで月が綺麗に見えないし、口や鼻から血が出ているのが分かる。
死ぬつもりなんてないが……もしも、もしも、死んでしまうなら……せめて貴方の暖かな腕の中で逝きたい。そして、貴方の中に私という存在を刻み付けたいだなんて馬鹿げた考えまでしてしまう。やはり最初に思った通り、私はルゥを巻き込み続け、それでも離せない。
ルゥ、傍にいて。
本当はもっと甘えたいの。もっと色々な場所に行ってみたい、まだ演劇に行く約束だって先延ばしになってしまってるのに。
その時、私が欲しかった温かいものに包まれる感覚がした。
「ナディア、手紙は読んだ!!医者もすぐ来る!!だからもう少しだけ耐えろ!!」
「……ねえ……ルゥ……」
「無理に喋るな!!」
「……わたし……ルゥのこと……好きみたい……」
「俺もだ!!だから、もう独りで抱え込んで行動するな!!もっと俺に甘えろ、頼れ!!」
あんなに寒かったのに今はとても温かくて安心する。凄く眠くて、もう目蓋が重くて持ち上げられない。ルゥが傍にいるならもう大丈夫、少しだけ、少しだけ眠ろう。
「……ルゥ……おやすみ……」
ナディアちゃああああん!!!!
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