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※誤字、脱字多かったらすみません。



鏡の中には白銀の長髪を優雅に結い、エルヴェの蝶の髪飾りが付いている。赤く鮮やかなマーメイドドレスの胸元には母からの贈り物の蝶のペンダントが輝いていて、十年前のペンダントだとは誰も気づかないだろう。


優雅で妖艶なドレスを纏い、蠱惑的な笑みを浮かべる私はまるで男性が夜会連れている高級娼婦の様だ。化粧は口紅だけ。血のように鮮やかな赤色が艶めいている。


「お嬢様、言われていた毒は此方になります。……ですが、約束して下さい。必ず、必ず私達の所へ帰って来ると」


「約束はあまりしない主義なんだけど……分かった、約束ねジェシカ」


心配そうなジェシカから毒を受け取り、ジェシカの小指を私の小指に絡ませ、指切りをする。遠い昔にエルヴェとだけした指切り、子供の様な約束事。


エルヴェは最後に何を思って父と共に逝ったのか。もしかしたら、あの幼い日の約束を守ったのかもしれない。でも……もうエルヴェはいないので真実は分からない。だから私は勝手にエルヴェが昔の約束を守ったのだと思うようにする。時には真実よりも、自分が信じる方が大切な時だってある。


「お嬢様?どうなさいました?」


「ん、昔の約束を思い出してただけ」


「どんな約束だったんですか?」


「秘密。その約束は私の心の内に仕舞っておきたいから」


そう言ってジェシカの頬にキスを贈る。昔のエルヴェに感じていた想いも、幼い頃の約束も私の心の内に死ぬまでそっと閉まっておく。


そうだ、ジェシカにルゥ宛の手紙を渡してもらわねば。


「ジェシカ、私が伯爵家に着いた頃合いにルゥにこの手紙を渡してくれる?」


「分かりました。きっとルーファス様も、お嬢様からの手紙に喜びますよ!」


「……さあ?それはどうだろうね」


支度は済んだ。後は私にとって牢獄だった伯爵家に、共も付けずお忍びの馬車で向かう。馬車の中でジェシカから受け取った毒の入った瓶の蓋を開け、全て飲み干すが風邪薬よりはマシな味だ。効果が現れるまでまだ時間があるからのんびりしておこう。


馬車の窓に視線を向けると、外は既に暗くなり始めていて月が薄っすらと見え始めている。今夜の月はきっとお母様が首を吊って死んだ夜と同じ月になるだろう。


暫くすると外は真っ暗になり、はっきりと姿を現した月を目を細めながら見やり伯爵家へと入って行く。するとフローディア一人が私を出迎えた。デザインは違うが、鮮やかな赤いフリルのドレスを着て髪を優雅に華の髪飾りで結っている。


「お姉様、誕生日おめでとうございます。必ず来ると思っていました。さあ、最後の晩餐を始めましょう」


「 そうだね、『貴女との最後の晩餐』を始めようか」


「お祖父様達は出掛けているので、今この屋敷には数人の使用人と私達だけしか居ません


「知ってる。私がお祖父様にそうする様に手紙を書いたから。邪魔だしね」


「やっぱり、お姉様は何を考えているのか分からなくて凄く魅力的ですね」


やっぱり思ってた通り、フローディアは壊れかけている。でもまだ完全に堕ちてはいない、まだ這い上がれる。


フローディアとダイニングルームに向かい、お互い椅子に座り見つめ合い私はフローディアを観察する。フローディアは私に本当は何を求めている?終わり?違う。この娘は迷い子の様な状態なのだろう。この娘はどうしたら良いのか分からず、立ち竦み動けずに少しずつ堕ちているのだろう。


「顔色が悪い様ですけど大丈夫ですよ、お姉様。食事や飲み物に毒なんて入っていませんから」


「ああ、顔色が悪いのは気にしないで。別に毒如きで怖くなったりしないから」


「お姉様の感覚は本当に不思議ですね」


私は出されたワインには手を付けず、水と豪勢な食事を吐き気を催しながら少しずつ食べていく。馬車で飲んだ毒が回ってきた様だ。だが、この毒は私には必要なのだ。この毒が私の結末を決めるものになるのだから。


ある程度食事を食べ終わると、フローディアに話があるから私の自室に行こうと誘われて付いて行く。私の自室に入ると、物の配置すら何一つ変わっていない懐かしい薄暗い部屋だ。ただ、薄っすらとだが煙草の匂いがする。


「ねえ、お姉様。お母様が死んだのは私がこの手で殺したからなの」


「だから?世間的には事故ってなってるんだからそれで良いんじゃない?」


「私はお姉様みたいに強くないの。毎晩お母様の最期を夢で見るのよ。頭がおかしくなってしまいそう……独りは嫌……だからお姉様私と一緒に死んで……それか私を殺して全部終わらせましょう」


「っ……!」


フローディアが果物ナイフを隠し持っていたのは知っていたが、態と避け無かった。


私は脇腹を刺したナイフを持った右手首を掴み、力強く握った反対の手でエルヴェから贈られた蝶の髪飾りの尖った部分で、フローディアの肩に突き刺すとフローディアはナイフから手を離し私から距離を取った。


私は素早くスカートを破り、刺さったままの果物ナイフを固定して扉の向こうに居る人物に声を掛ける。



「……そろそろ入って来ても良いですよ」




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