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※誤字、脱字多かったらすみません。
むせ返る程の甘い香りに私の意識は暗闇から浮上する。目蓋を緩々と開けると部屋一面が花だらけで思わず顔を顰め、こめかみを押さえた私を誰が責められようか。
はっきり言って嫌がらせに近い。
色々な花の甘い香りが混ざり合い、最早匂いの暴力だ。視界も沢山の色の花が己を主張していて目が痛くなる。一つ一つなら綺麗なものを、バランスも考えずに溢れんばかりに飾っても意味が無い。
起きて早々に溜息をつき、怠い体を動かして部屋の窓を開けて換気すると、甘い香りの暴力は少しばかりマシになる。
外は雲一つ無い青空が広がっていて憂鬱になる。あまり天気が良い日は得意ではない。どちらかといえば、曇りや雨の日の方が好きだ。特に雨音を聞きながらベッドの中で微睡み、夢と現実の狭間を揺蕩うのが心地良いのに。
サイドテーブルに置いてある煙草を手に取り、甘い香りを誤魔化すように吸い始める。風邪のせいか喉が煙草の煙を吸うたびに痛みを訴えるが、私はそれを無視して吸い続ける。体には毒にしかならない、それでも私は緩やかに毒を取り込み続ける。
窓の縁に座り煙を燻らせるが、そよ風が煙を攫って行く。それを見ながら空中に溶ける煙を少しだけ羨ましく思う。
そうしているとルゥが部屋に真新しい花束を抱えながら入って来る。この部屋を花だらけにした犯人が自ら証拠を持って来るとは。
ルゥは部屋に入り私を視界に捉えたかと思うと、顔色を変えて花束を投げ捨て、凄い速さで私に近寄り腕を掴まえ窓の縁から引きずり落として、私を腕の中に抱え込む。
「死ぬなんて馬鹿な事はやめろ!!死にたい程俺が嫌いか!?それとも、あの女に何か言われたのか!?」
「……ルゥ」
「お前の本心を少しで良いから聞かせろ!!理解は出来なくても一緒に考えて共有する事は出来る!!」
「ルゥ……死のうとしてないし、力が強くて苦しい、煙草が危ない、とりあえず今の私の本心」
「……ああ?」
「この部屋を花屋にするのはやめて。気持ちは嬉しいけど、香りが混ざり合って鼻が痛い」
「……ああ」
「……でも、ありがとう」
緩んだ腕から抜け出し御礼を言う。失敗はしているが、ルゥなりの気持ちが嬉しいのは本当だから。次からは庭師にでも相談して、数とバランスを考えて欲しいが。
灰が落ちそうになっている煙草を灰皿に押し付けて火を消す。ルゥは投げ捨てた花束を拾い、どうしたものかと悩んでいた様子だったので、花束に手を伸ばすとルゥが手紙を持っている事に気付いた。
あの女、カロリーナからだろうか。私の顔が歪んだ笑みに変わっていく。その様子を見たルゥが否定するが中々手紙を見せないので、疑うのは当然だろう。
「ルゥ……貴方が私を裏切らない限りは、私も貴方を裏切らないつもりだったんだけど」
「嫉妬は嬉しいんだが、この手紙は違う。出来ればお前には読ませたくないが……これはお前宛の手紙だ」
「…………フローディアねえ」
渡された手紙の送り主を見ると、異母妹であるフローディアからだった。便箋を開け手紙を読むと、私の誕生日に伯爵家での食事の誘いだった。だか、最後の一文で全てを察してしまう。
『全てを終わらせましょう、お姉様』
馬鹿な娘だ。周囲にも目を向けろと言ったのに、結局辿り着くのはこれか。別にこの誘いを断っても良いが、それではつまらない。こんな簡単で楽な終わらせ方など私が面白くない。
手紙を細かく破って開いた窓から捨てると、風が手紙だったものを何処かへ運んで行く。
「……行くのか」
ルゥの問い掛けに私は何も答えず微笑むと、また腕を引かれてルゥの腕の中に閉じ込められる。この人の腕の中に閉じ込められるのは嫌いじゃない。暖かくて安心感を感じるから。
私も抱きしめ返して、胸に頭を擦り付けて甘えながらルゥの匂いを嗅いでいると、頭を撫でられる。
「ルゥ、私はきっと最後には貴方の腕の中に帰るよ」
「帰らなくても迎えに行く」
「帰って来たらカロリーナ様の件を説明してね?楽しみにしておくから」
「……お前が考えてる程、深くも面白くも無い話だぞ」
ルゥの顔に手を伸ばして引き寄せ頬にキスを贈る。
顎髭が私の肌を掠め、少し擽ったいが嫌いじゃない。いずれは顎髭を剃った姿も見てみたい気がするが、強制はしない。
さて、面倒だが妹のお望み通りに私のやり方で終わらせる準備をするとしよう。私も面倒だがこの誘いに乗る辺り、大概甘いところがある。
でもそれで良い。人間はだれしも二面性を持っている。大事なのは二つの性質を使いこなし行動することにある。
「ねえ、ルゥ。フローディアの婚約者のマルセル様ってルゥから見てどんな人?」
「あの青年は貴族には向いてないくらい優しい人間だと俺は思うが……それがどうした?」
「そう……それだけ分かれば充分」
さあ、フローディア。
私達の終わりを始めようか。
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