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父親視点

※誤字、脱字多かったらすみません。

父親視点と、主人公視点です。


私は最低な人間だ。



妻であったアルマを死に追いやり、私に似た愛しい娘を壊してしまった。


「ナディア……入るぞ」


返事のない部屋に入ると、ナディアがソファの上で横になり、気怠げに本を読んでいた。

令嬢としては考えられない姿だが、全ては私が原因なのだ。


「今日は、お前と話が出来るまで部屋から出ていかない」


すると、ナディアはゆっくりと視線を本から離し、観察するように私を見る。


アルマが死んだ日から娘は変わってしまった。かつて私がアルマを避けてしまったように、ナディアは私や今の妻であるアネット、そして異母妹であるフローディアを避ける。この子の中で、私達はまるで存在しないような。


もう何年もナディアと会話をしていない。

話しかけても返事が返ってくることがないのだ。


「ナディア……私がした事は許されないと分かっている」


ナディアは何も答えない。

だが、不思議そうな表情で私を見ている。


「許さなくていい、憎んでくれ。責めてくれていい。それだけの事を私はした。だが、私はお前の事を大切に思っている。それだけは分かってくれ」


「……ふふっ」


蠱惑的な笑みを浮かべ、ナディアは静かに嗤った。

ソファから身を起こし、テーブルに置いてあった煙草を咥え、火をつけた。


部屋には、甘い香りと煙草の匂い。

何故か不快には感じない。


「本当にすまない……」


「ねえ、お父様。」


「ナディア……」


数年ぶりにナディアが私に話してくれた。

思わず、縋るような目を向けてしまう。


「そんなに自分自身を愛してるの?」


一瞬、呼吸が止まった。


「私には、お父様が本当に愛しているのはお父様自身にみえるの」


「……なぜ」


「許されないと言いながら、私に憎まれ、責められる事で罪悪感を軽くしたいんでしょ?」


「っ違う!!」


「想いを貫いた自分、罪を背負った自分、娘に憎まれる自分。お父様はそんな自分を愛しているの」


「……違う」


声が震える。


ナディアは煙草を燻らせながら立ち上がり、私の前まで来た。蠱惑的な笑みを浮かべながら私の顔を覗き込み、問う。


「本当に?」


何も言えなかった。

否定しようとしたが、言葉が出てこなかった。

まるで心を見透かされているような感覚だ。


「憎まれて責められたいって気持ちもあるんだろうけど、愛している自分にそっくりな娘だから、私を気にかけてるんじゃない?」


全身が震えた。


アネットの事を愛している。

だが、私が本当の意味で愛しているのは、そんな許されない愛を貫いたという、罪を背負う『私自身』なのだ。


この子は気づいていた。


「違うのならごめんなさい。でも、もしそうなら……」



ナディアは何の感情も無い目で、私の目を見る。



「その愛に、私を巻き込まないで?」




それでも私は、私に似たこの子を……








ーーーーーーーーーー






「ねえ、エルヴェ」


「なんだ?」


「愛の反対って何だと思う?」


「急にどうした」


エルヴェがまた私に会いに来た。

追い返す理由もないので、庭で紅茶を飲みながら、たわいも無い会話をする。


昨夜、父が部屋に来た。

話をするまで放してくれないようだったので、仕方なく数年ぶりに会話をしたのだが。


なんとも、くだらない話だった。


「愛憎と言う言葉があるのだから、愛の反対は憎しみじゃないか?」


「……へえ」


「だが……」


エルヴェが言い淀み、手元のティーカップを見つめる。私は静かに言葉を待つ。


「お前を見ていると、愛の反対は無関心じゃないかとも思う」


「無関心ねえ」


「……何かあったのか?」


「別に?ただ気になっただけ」


気怠げにエルヴェに微笑み、紅茶を飲む。



綺麗で甘いお菓子を手に取り、口の中でグチャグチャにする。



胸焼けがしそうな程、甘くて美味しい。



やはり、私は苦い煙草がいい。






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