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異母妹視点

※誤字、脱字多かったらすみません。



お母様が死んでから私は実家である伯爵家に戻った。この屋敷にはお祖父様とお祖母様、私と使用人しか居ない。お父様もお母様もお姉様も、もう居ない。


私は婚約者のマルセル様と手紙のやり取りをし、時々お茶会をして過ごしている。それ以外は部屋に籠り、お姉様の真似をしてソファに横になっている。


お姉様は孤独だ。お姉様の心は毒に塗れている。

私も孤独だ。私の心も毒で満たされている。


実の母親の自殺を目の前で見たお姉様。

この手でお母様を殺した私。


お父様に歪んだ愛で縛られていたお姉様。

お父様に偽物の愛で包まれていた私。


愛を欲しがらなかったお姉様。

愛を欲しがった私。


お姉様は強い。

私は弱い。


私達は似ていないが、お互い似た様な絶望を知っている。お姉様だけが私の気持ちを理解出来る。お姉様だけが本当の私自身を見てくれて、私を想って手紙をくれた。


でも、お姉様はその一度きりで前と同じ様に私を見なくなってしまった。


ねえ、お姉様。私お母様をこの手で殺してしまったの。

そんな私を見て、私を分かって、私を認めて、私を愛して、私を必要として、私を独りにしないで、私とずっと一緒にいて……私を助けてお姉様……


独りは怖いの、独りは寒いの、独りは苦しいの、独りは寂しいの、独りでは真っ暗で何も見えないの。独りで堕ちていくのは嫌だ。



「どうしたんだい、フローディア」


「いえ……少し考え事を。お姉様の誕生日が近いので」


「ああ、ナディア様の誕生日か。でも今は盛大に祝えないのが少し残念だね……」


「ええ、ですが折角の誕生日なんですもの。一緒に食事だけでもと考えているんです」


私の婚約者の子爵家の跡取りである、マルセル様。

平凡で地味な方だが温和で優しい。でも、それは私を何も知らないから、私の隠された罪を知らないから。

この方には私を理解出来ない。この方では私と一緒に堕ちて逝けない。


お姉様への食事の誘いの手紙は今日出した。

きっとお姉様はあの手紙を読めば、私のしようとしてる事を分かった上で誘いに乗るだろう。お姉様は残酷で優しい人だから。


お姉様を殺して私も死んでしまいたい。


もしかしたらお姉様が私を殺すかもしれない。いや、その方が良い。お姉様を私と同じ場所に堕とせるのだから。人殺しという場所まで。


私は罪を裁いて欲しいのかもしれない。卑怯にも他の誰でもない、お姉様に人殺しという罪を背負わせながら。毒塗れなのに、何一つ手が血で汚れていない綺麗なお姉様。


罪悪感と仄暗い喜びの感情がせめぎ合う。


どうなるにせよ、お姉様の誕生日に全てが終わる。

共に死ぬか、私が死ぬか、全てはお姉様の掌の上だ。


ごめんなさい、お姉様。

こんな方法でしか自分を救えない私は、お母様にそっくりだ。弱くて独りで終わらせる事もできず、縋る事しか出来ない。どこまでも弱い私。


私はもう足が竦んで前に進むなんて出来そうに無い。立ち上がる術も分からない。ただ人として堕ちていくだけ。


「フローディア、大丈夫かい?何かあるなら話してくれ。君みたいに可愛い人には僕じゃ頼りないかもしれないけど、君の支えになれるよう努力するよ」


「……え?」


「……泣いてるよ」


知らず知らずに、自分の頬に涙が伝っていた。この涙は誰の為の涙なのだろうか。いや、どうせ自分勝手な自分の為の涙だろう。私はそういう人間なのだから。


マルセル様が差し出したハンカチで涙を拭う。

昔もエルヴェ様がハンカチを差し出しながら泣けばいいと言ってはくれたが、一度もマルセル様のように話してくれとは言われた事は無かったと思わず苦笑いしてしまう。


マルセル様のような優しく温かい人には、私の様な卑怯で汚い人間の心の内など聞かせられない。聞かせたくない。せめて、この方には私の毒には触れない様にしなくては。汚してはいけない。


「無理には聞き出さないけど、いずれ話してくれたら嬉しいかな。僕達はこれから長い時間一緒なんだ、ゆっくり歩いて行こう」


「……マルセル様……私、もっと早く貴方に出会いたかった」


「フローディア?」


「ごめんなさい、少し体調が悪いみたいなのです。今日のところはこの辺りで終わりにしましょう」


マルセル様とのお茶会を強引に終わらせて、お姉様の部屋に籠る。薄暗くて物が少ない部屋。いつも甘い香りと煙草の匂いがしていたのに、今は何の匂いもしない。


部屋にはお姉様から取り残された煙草がある。私はそれに手を伸ばし、恐る恐る口に咥えて火を付け吸ってみる。


「ゲホゲホッッ!!ゴホッ……ゴホッ……」


吸った瞬間、喉に焼ける様な痛みと、息が出来ない肺の苦しさ、口の中には酷い苦味が広がり、煙が目に入り染みて涙が出る程痛い。何故こんな物をお姉様は吸っていたのだろう。何一つ良い事なんて無いのに。


それでも、私はまた煙草を吸って噎せて、吸って噎せてを繰り返す。こんな事をしても、お姉様の様に強くなれる訳じゃないのに。


苦しい、胸が重くて痛い、息が出来ない、涙が止まらない。お姉様、お願い……狂って歪んだ私を受け止めて、終わらせて。それが出来るのはお姉様だけだから。


「……お姉様……助けて……」


迷子になった子供の様な言葉は、煙草の煙と一緒に空中に溶けて消えていった。




マルセル君が眩しく感じる作者でございます


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