4
※誤字、脱字多かったらすみません。
「ルーファス、少しの間ディオを貸してくれないか。チェスをしたいんだ」
ポーカーが終わり、さて次はどのゲームをしようかと思っているとシエルがチェスに誘ってきた。私に何か用があるのだろう。シエルの言葉にルゥが見たことが無い程、無表情になりシエルを睨め付ける。
「シエル……ディオに何かするならお前でも許さないぞ」
「大丈夫だよ、ただチェスをしながら話をしたいだけだから」
「ルーファス様、チェスをしながら話すだけなので大丈夫ですよ。貴方は少しの間近くでゲームでもしていてください」
安心させる様に微笑んで頬を撫でると、ルゥは何か言いたそうにしながらも私達から離れていった。
シエルとチェスができる場所に移動して椅子に座る。シエルは微笑みながらチェスの準備を手際よく進め、私は後手の不利な黒の駒を選びゲームを始める。
「ルーファスはもっとスマートな男だと思っていたんだけど、今は君に恋する大型犬に見えるよ。ディオ……いや、ナディア嬢」
「……さあ?」
「彼奴は人を転がすのが上手い。なのに君の掌で転がらされっぱなしに見える。そんな真似が出来るのは君くらいしかいないだろう」
私は何も答えずに駒を進める。シエルは相変わらず静かに微笑んでいるため、何を考えているか読みづらい。
ルゥが犬なら、シエルは蛇だ。
ゆっくりと近づいて噛み付き、毒を流し込んでくる。
「ルーファスは大事な友人なんだ……もし裏切る様なら私は君を許さない」
「チェック」
「ルーファスは良い奴だ。君みたいな人には合わない。……そう、君には亡くなったエルヴェ・ブランセット辺りがお似合いだ」
「チェックメイト」
さて、ゲームは私の勝ちだ。
シエルの言葉の毒は生易しくて可愛いものだ。もっと猛毒でも流してくるかと思ったが……この程度か。
私がルゥを選んだのでは無い。ルゥが私を選んだのだ。私に言うのではなくルゥに言えばいいものを、態々私に生易しい毒を流し込んで何がしたいのだ。
煙草の煙を燻らせながらシエルを観察すると、微笑んでいるが私への警戒心、疑心、微かな恐怖。
「……君は人間として大事なものが欠けているみたいだ。私には君が悪魔か何かに見えるよ」
私が悪魔か。
シエルは悪魔を見た事があるのだろうか。私はある。
理性も良識も何もかも通用しない悪魔を。
「そこまでだ、シエル」
私達のゲームが終わった事に気付いて来たルゥが、シエルの肩を掴み言葉を止める。凄い力で掴んでいるのか、シエルの顔が痛みで歪む。若干シエルの骨が軋む音が聞こえたのは気のせいだろうか。
しょうがない、助け船を出してあげよう。
こんなくだらない事で仲違いなんて馬鹿らしい。
「ルーファス様、僕とシエルは楽しいお喋りをしていただけです。とても有意義な時間でした」
ルゥに優しく微笑むと、眉間に皺を寄せながらも渋々シエルの肩を離した。
「ディオ、そろそろ帰るぞ」
ルゥは私の腕を掴んで賭博場から出て行く。遠ざかるシエルを見ると、複雑な表情で私達を見送っていた。まあ、私への言葉はルゥを心配しての事だろう。
「ルゥ、良い友達を持ったね」
「……ただの腐れ縁だ」
ーーーーーーーーーー
「ルゥ……まだ拗ねてるの?」
帰ってきてからずっとルゥは不機嫌だ。別に言葉に棘があるわけでも顔に出ているわけでもないのだが、なんとなく不機嫌な雰囲気がするのだ。
屋敷の人達が寝静まった頃にルゥの部屋を訪ねると、ルゥは寝巻き姿で煙草を吸いながら一人酒をしていた。ルゥの向かい側のソファに座り、ルゥの煙草を一つもらい煙をゆっくり肺に入れる。
「お前は確かにどこか歪んでる」
ルゥの言葉を聞きながら肺の煙を吐き出す。
酷く苦くて、肺が重くて、喉が痛い。
「でも、大事なものをちゃんと持っている……優しさだ。悪魔だったら優しさの欠片すら無いぞ」
「……私が優しい?」
「ジェシカには勿論だが、この屋敷の使用人に土産を買ったり、体調の悪い奴には声を掛けて休みをやったりしていただろう。他にもまだまだあるぞ?」
「打算塗れの優しさなのに」
「俺には全てがそうとは見えないけどな」
ルゥは真っ直ぐ私の目を射抜き不敵に口角を上げる。
まただ、また胸が騒つく不快感が湧き上がる。
私はそれをいつも通り切り離しそうとすると、ルゥに煙草持っていた手の手首を優しく掴まれた。
「切り離すな、どんな感情だろうとそれはお前の心だ。自分の心を思考で殺し続けるのはやめろ」
「……そろそろ部屋に戻るね。おやすみ、ルゥ」
ああ、苛々する。
(事実を言われただけだ)
ルゥに私の何が分かる。
(人が人を完全に理解する事など不可能、それをルゥにぶつけるのは間違っている)
ルゥの取り巻く環境が良かったから言えるのだ。
(それは私の押し付けだ)
落ち着け、切り離せ、そして思考しろ。
そうすれば感情に振り回される事なんてない。
十八歳とは思えないナディアちゃん
よかったら、感想・評価お願いします。




