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※誤字、脱字多かったらすみません。



「お嬢様の髪は櫛を入れなくても大丈夫なくらい綺麗ですね。羨ましい限りです」


ジェシカが私の髪を梳かしながら笑っているが、鏡越しに表情を観察すると暗い感情が見え隠れしている。


ジェシカは母が死ぬ少し前に屋敷に来た。

もう十年も私と一緒にいるのだ、気にならない訳がない。あの屋敷での私の環境に怒り、何も出来ない己に泣き、私の側に寄り添った人物。


「ジェシカ、どうしたの?何か気になる事でもあった?」


「お嬢様には隠し事は出来ませんね。……私、伯爵様や奥様が亡くなられて、少しだけ喜んだ自分がいるんです。そんな私は酷い人間なんでしょうね……」


「……そう?」


落ち込んだ様子で少しの間手を止めたが、直ぐに動きを再開した。


極端だが、好感を持つ人物が死ねば悲しい、嫌いな人物が死ねば嬉しい、そう思ってしまう事は人間として酷いのだろうか。周囲に言いふらすような事をしなければ、誰にも咎められたりしないし、だったら自分の中で思うだけなら良いのではないか?


私は時々、自分の感情や周囲の人物の感情を遠い場所から眺めて自問自答を繰り返してしまう。


「はい!出来ましたよ、お嬢様。そろそろルーファス様と朝食の時間なので急ぎましょうか」


「そんなに急がなくても間に合うし、ルゥも朝食も逃げたりしないでしょ?」


「早めに行動していて損はないですよ」


時間は守る様にはしているが、早めに行動するのはあまり好きではない。まるで生き急いでいる様な感覚になる。


緩々と椅子から立ち上がり、ダイニングルームに向かう。廊下ですれ違う使用人達を観察しつつも、何も裏が無い様な顔で微笑む。


身近な人間程、敵は少ない方が良い。この顔は非常に役に立つのだから利用しない手はない。


ダイニングルームの扉を開けてもらい決められた席に着くと、直ぐにルゥが部屋に入って来た。

朝が弱いらしく、気怠げに無駄に色気を振り撒く姿は、何故か詐欺師の様な印象を受けてしまう。実際は公爵なのだが。


「おはよう……顔色が悪いな。夢見でも悪かったか?」


「おはよう、ルゥ」


「……何も答えずに流す時は事実の場合が多い。最近、お前の事が何となく分かってきた」


ルゥは片方の口角だけを持ち上げて笑い、私は何も答えずに微笑み座る様に促す。運ばれて来たパンやスープ、サラダ、色とりどりの果物。公爵家の朝食にしては質素だろうが、私達には丁度いい。


元々ルゥは朝食は食べない派だったらしいが、私が来てから朝食を取るようになったと執事のジェイが喜んでいた。別に私も朝食は食べなくても良い人間なのだが、ルゥが食べようと誘うのなら断る理由もない。毎日繰り返されると、それが当たり前になり違和感が無くなる。


少しずつ私の中にルゥが侵食してくる。


暖かくて穏やかな気持ちと、胸がざわつく不快感。

私はその感情を遠ざけて眺める。


私はそれを繰り返す。何度も何度も繰り返す。


一口サイズに切られた林檎を静かに噛み砕きながらぼんやりとルゥの顔を観察していると、私の視線に気づいたルゥが珈琲を飲みながら苦笑いをこぼす。


「俺に興味があるのは結構なんだが、食事中に見つめられると少し落ち着かない」


「……次からは気をつけるね。顔を見ていたのは特に深い意味は無いから気にしないで?」


「意味は無いって……お前可愛くないぞ?」


「それじゃあ、構って?」


「お前なあ……」


確かに食事中に顔を見つめるのはマナー違反だった。

けど、私より先にチラチラとこちらを伺う様にルゥが見ていたのを知っている。


ルゥは頭をかきながら耳を赤くし、今日は休みが取れたからお忍びで気分転換に出掛けないかというお誘いだった。それならばと、ずっと行ってみたかった場所を言うと盛大に呆れられてしまった。


「なんでそこに行ってみたいんだ。もっと何かあるだろう」


「一度他の人としてみたかったの。いつも相手をしてくれるのはエルヴェだけだったし?」


「俺だけで我慢できないのか?」


「ルゥでもいいんだけど、折角なら色んな人としてみたいかな?」


「……分かった。だが、絶対に嵌るなよ。あれは一度嵌ると抜け出すのは大変だと聞いている」


「もし嵌ったらルゥが相手をしてね?」


気怠げにルゥを見つめて微笑むと、頭でも痛いのかこめかみを抑えながら溜息をつく。食事も終わり、直ぐにジェシカに出掛けるために必要な物を準備してもらう。服もルゥが準備してくれるらしく、ジェイに服の場所を聞いていた。


形だけでもとはいえ、喪に服している私が行ける場所は限られている。今から行く場所など普通の人ならば絶対に行かないところだ。


だったら変装をしてしまえばいいだけの事。

使用人達には気分転換に外に行く為と本当と嘘を交えて伝える。まあ、ルゥと一緒なら何も言われないが。


「お嬢様……本当にこの服に着替えるのですか?」


「そうだけど?多分サイズは合ってると思うけど」


「……分かりました。腕に縒りを掛けて完璧に仕上げてみせます!」



ジェシカが意気込み腕を捲り上げたので、期待する事にしよう。





今のところ、少し明るめのテイストで進んでいます。

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