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※誤字、脱字多かったらすみません。

続編であり本編でもあります。



ゆっくりと周りを見渡すと、薄暗くて物が少ない見慣れた部屋。此処は私の実家である伯爵家の自室のようだ。一瞬思考が止まったが、これは夢だ。私は今、婚約者である公爵の屋敷に住んでいるのだから。


抜け出したと思った場所の夢を見るなんて、思わず溜息が出る。


「……っ……っ……」


「……誰かいるの?」


寝室の方から、微かに子供の泣き声が聞こえる。泣き喚く様な声じゃない、感情を押し殺す様な声だ。


ゆっくりと寝室に続く扉に近づいて取っ手を握るが、少しだけ躊躇してしまう。何故か覗いてはいけないものがある様な気がした。だが、これは夢なのだ。何があるとしても夢でしかない。


扉を開けて寝室に入るが、其処には誰もいない。だが、泣き声はさっきよりもハッキリと聞こえる。泣き声の主を探す様にベッドに近寄ると、ベッドの陰に隠れて床に座り、膝を抱えて泣いている女の子がいた。


月の光に反射して輝く白銀の長い髪、涙で覆われたエメラルドの瞳、父と似た美貌を歪めて泣く、白いドレスの女の子。


ああ、何処かで見た事があると思ったら幼い頃の私か。


幼い私を無機質な目で見下ろすと、幼い私はゆっくりと顔を上げて私を見上げる。


これは幼い私の姿をしているが、過去の私ではない。今まで泣いた事はあれど、膝を抱えて泣く真似など一度だってした事は無い。この夢に何の意味があるのだろうかと、試しに幼い私に問いかける事にした。


「何に対して泣いているの?」


「……どうして閉じ込めるの?」


幼い私は泣きながらも、少し間を置いて答えた。反応が返ってくるとは思っていなかったので少し驚く。しかし、質問に質問で返され、その質問の意味もよく分からない。少しの間思考していると、幼い私は顔をまた歪めて涙をこぼして、小さな手で顔を覆ってしまう。


「……わたしをここから出して……」


「……?」


その言葉に首を傾げてしまう。白銀の髪に人差し指を絡ませながら言葉の意味を考えるが、段々馬鹿らしくなってきた。


「嘘泣きはやめたらどう?」


幼い私の姿をした『それ』は、私の言葉に泣き止んだかと思うと、顔を覆っていた指の隙間から三日月型に変えた目を覗かせて、歪んだ笑みを浮かべる。その姿が死んだ父と重なり、理解した。これは私の中に秘めているものだろう。


あの家から抜け出した時から、少しずつ大きくなっているもの。私が理性で飼い馴らしているもの。態々夢に出てこなくても良いのに。だが、正体が分かれば先ほどの言葉の意味も自然と分かる。


いつの間にか握っていた何の匂いも味もしない煙草を口に咥えながらベッドの縁に黒いドレスを翻して座り、足を組む。


『それ』は顔を覆っていた手を退けて、仮面を貼り付けた様な笑みでゆっくりと立ち上がり囁きながら近づいてくる。


「ねえ、あの人を壊そう?壊して、依存させて、操って、自分だけのものにしよう?」


「そんな壊れた人形なんていらないんだけど」


「うそつき」


その言葉に静かに微笑む。あの人……ルゥは優しくて暖かい。でも、それはいつまで続くのだろうかと少しだけ影が付き纏う。感情は気まぐれで絶対なんて無いのは頭では理解しているのに。


大事にしたい、いずれ変わってしまうならいっそ壊したい。相反する感情が私の中にある。


目の前の『それ』に気怠げに嗤い、持っていた煙草の火をベッドに付ける。少しずつ火が燃え広がっていくが、夢の中なので熱さは感じない。あっという間に私は炎に囲まれ、その様子を『それ』は笑みを深めて見ていた。


「……逃げるの?逃げられるわけないのに」


「まあ……上手に付き合っていくしかないんじゃない?貴女は私の一部なんだから」


炎の中で微笑み、目蓋を閉じる。瞼の裏に光を感じるので夢から覚める頃合いだろう。


夢は人の深層心理だと本で読んだことがあるが、あながち嘘ではないかもしれないと妙に感心しながら意識が浮上して目蓋が震えるのが分かった。



重い目蓋を緩々と持ち上げると、カーテンから漏れる光の眩しさに頭が痛くなる。そろそろ侍女のジェシカが起こしにくる時間だろうと髪をかきあげながら体を起こし、溜息をつく。


眠っていたはずなのに酷く疲れるなんて寝る意味が無いような気がしてきた。


シーツを体に巻きつけベッドから降りると、寝室の扉をノックする音が聞こえ、ジェシカが入ってくるが頬を染め、呆れたような顔をして私を窘める。


「お嬢様……寝るときはネグリジェをちゃんと着てください。裸で寝てると風邪を引きますよ?それに、この間だってルーファス様が中々起きてこないお嬢様を自ら起こしに来てくださったのに、お嬢様がそんな格好をしているから鼻血を出して大変な事になったではありませんか」


「……ルゥって私より十歳も年上なのに、時々可愛い反応するよね?私以外には余裕たっぷりなのに」


「……それは、お嬢様が相手だからではないでしょうか」


ルゥは私を子供扱いする癖に、そういう反応をするので揶揄うのが少し面白い。


ジェシカに黒いシンプルなドレスを出してもらい、それに着替える。父や継母が死んだので、喪に服すという意味合いで基本的に黒か暗い色合いのドレスを最低でも半年間は着なくてはいけない。ルゥとの婚約期間も伸びる事になったが別に問題はないだろう。


黒いドレスを着ながら夢の中の言葉を思い出す。


「……嘘吐きか」





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