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狂った茶会

※誤字、脱字多かったらすみません。



もう車椅子や杖が無くても自由に動き回れる。まだ公爵家の屋敷からは一歩も出てないが、ルゥが近いうちに演劇に連れて行ってくれるらしい。幼い頃、母と行った以来なので少し楽しみにしている。


演劇や本は好きだ。それぞれが決められた役を演じて紡ぐ、煌びやかな偽りだらけの物語。悲劇と喜劇は紙一重。私はそれを眺めるのが好きだ。


屋敷では好きにしていいと言われているので、最近やっと許可が出た煙草を吸いながら庭の花を眺めていると、執務室に居るはずのルゥがやって来た。


「……ったく、元気になったと思ったら早々に煙草か」


「ルゥがやめるなら、私もやめるけど?」


「……考えておく」


ルゥは、ばつが悪そうに目を逸らす。煙草は慣れ親しんでしまうと、中々手放せないのだ。これも一種の依存だろう。


「侯爵子息のエルヴェ・ブランセットから手紙が来た。お前に面会したいそうだが……どうする?断っても良いが」


「……会うよ。そろそろ来るとは思っていたし」


エルヴェは弱っていく私を、見舞いと称して楽しんで眺めていた。いつ私がエルヴェに縋ってくるのかと。だが、私はエルヴェには縋らなかった。縋ったとしても、伯爵家にいた頃と大して変わらないのが分かっていたからだ。


「あまり無理はするなよ。もっと俺に頼っていい」


「うん。『あまり』無理はしないようにするね」


煙草の煙を吐き出し、ルゥに妖しく笑いかける。私がしようとしている事を、何となく感じ取っているようだ。だが、エルヴェに関しては私がやらなければならない。そうでないと意味が無い。



私達は幼馴染なのだから。




ーーーーーーーーーー




「久しぶりだな、ナディア」


「そうだね、エルヴェ」


私とエルヴェは歪んだ笑みで嗤い合う。


公爵家の庭でエルヴェと面会する。なんの感動も無い再会だ。私付きであるジェシカは離れた所に控えているので、エルヴェは本性を隠すことはしない。



さあ、エルヴェ。私と狂った茶会を始めよう。



「まさか公爵様がお前の為に、ここまで動くとは思っていなかった」


「運が良かったんでしょう」


私が入れた紅茶を、私達は静かに飲む。


賢い癖に馬鹿なエルヴェ。いつも私が紅茶を入れている事に慣れていて、なんの警戒もしていない。況してや私の環境は前とは違い、自由なのに。エルヴェは何も気付かずに嗤う。


「想定外だったが、お前を壊すやり方なんて新しく探せばいい。……例えばそうだな。お前のお気に入りの侍女を壊してみるとか」


エルヴェの言葉に片眉が上がる。私の反応を見ているのだろう。エルヴェは理解しているのだろうか。壊される覚悟が無いのに、壊すと戯言をほざいているのに。


「……ねえ、エルヴェ。貴方が私で遊ぶなら、私も貴方で遊んでも構わないよね?」


「お前に何が出来る……っ!?」


エルヴェは持っていたティーカップを落とし、真っ白なテーブルクロスに染みが広がる。私はそれを気怠げに見つめながら煙草を取り出して火を付ける。私は事前に解毒薬を飲んでいたので、なんの異常もない。


「大丈夫だよエルヴェ。三十分くらい痺れるだけの毒だから。後遺症もないから安心して?」


「……な……ぜ」


「エルヴェ。なんの覚悟も無いのに、私を玩具にして遊ぶのは駄目だよ。今回はこれだけにしておくけど……それでも貴方が何かすると言うのなら……」


今までに無いくらい歪んだ笑みを浮かべながら、痺れて動けないエルヴェの耳元に顔を近づけ、優しく囁く。




「次は殺す」





今回は忠告だけで済ませてあげる。


今回の事を周囲に言ったとしても、誰も信じたりしないだろう。だって私達は『仲の良い』幼馴染なのだから。


煙を燻らせながらエルヴェの顔を見ると、エルヴェの目には恐怖心が見える。それはそうだろう。今まで噛み付いてこなかった私が、急に喉元に喰らい付いて来たのだから。



私は煙草の火を消し、毒の入った紅茶を改めて飲み始める。我ながら美味しく紅茶を入れられたと感心してしまう。



今度、ルゥにも紅茶を入れてあげよう。



勿論、毒は入れないが。





ナ、ナディアちゃん・・・(ガクブル)


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