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公爵視点

※誤字、脱字多かったらすみません。



おかしい。


ナディアと会話をした翌日に、伯爵家へ婚約の打診する手紙を送った。以前送った仄めかす様な手紙ではなく、正式な縁談の申し込みだ。なのに伯爵家からは何の返信もない。異常すぎる対応に嫌な予感を覚える。これは前伯爵に話を通した方が確実だと判断し、すぐ様手紙を送り、面会の手筈を整える。


グラン・エヴァンズ前伯爵はナディアの実母が亡くなってから、すっかり表舞台に出て来なくなった。面会の日までにナディアやその周囲を調べると、あまりの実態に開いた口が塞がらなかった。


伯爵の過去もそうだが、ナディアは社交界以外は殆ど外には出してもらえず、自由に動けるのは屋敷の中だけ。常に見張りが付き、監視されているようだった。これは急がないと取り返しのつかない事になるかもしれない。


「前伯爵、貴方は息子である伯爵の行動を把握していらっしゃいますか?私が調べたところ、ナディア嬢に対する行動が異常です」


「……はい。把握しています」


前伯爵は後悔をにじませた表情で俯いてしまった。把握しているのなら何故助けない。何を考えているのだ。怒りで手が震えるが、感情的になっては話が進まない。すると、前伯爵はゆっくりと話し出した。


「私達は息子を目に入れても痛くない程可愛がりました。何をしても叱らず、ただ息子の行動を肯定するだけだった。それが間違いだったと気付いた時には全て手遅れでした……」


「……そしてナディア嬢の母に全てを押し付け、死に追いやり、傍観ですか。貴方達は最低だ」


「……返す言葉もありません」


思わず責め立てる言葉が出てしまった。だが、それ程までにこの人達の行動は最低だと感じる。だが、今はこんな話をしている場合では無い。


「私は伯爵家にナディア嬢との正式な縁談の申し込みの手紙を送ったのですが、一向に返事が来ない。恐らくですが、伯爵の異常さを考えるとナディア嬢が危ないかもしれない。縁談の許可と、保護する権利が欲しいのです」


「なんと……まさか公爵様の手紙を無視するなんて、息子はどこまで……。分かりました、どうかナディアをお願いします……」


前伯爵は顔を真っ青にしながらも、深々と頭を下げた。だが、これだけでは足りない。ナディア、そして現伯爵夫人と異母妹も、伯爵から離さねば。ここは前伯爵に尽力してもらわなければならない。


「前伯爵、貴方は責任を負わねばならない。伯爵を療養の名目で領地の屋敷にでも隔離して欲しい。伯爵は毒だ。周囲の害にしかならない」


「……責任……毒……分かりました」


「それでは私は許可も貰った事ですし、このまま伯爵家を訪ねたいと思います。この件はくれぐれもお願いします」


これでいい。種は蒔いた。


俺の言葉の意味を前伯爵は『正しく』理解しただろう。この人は手を汚して責任を負わねばならない。


顔の色を無くした前伯爵を部屋に残して、早々と屋敷を出る。早く伯爵家に行かねば。俺のカンは昔から嫌になる程当たるのだ。




ーーーーーーーーーー




伯爵家の屋敷に来ると、俺は慌てる使用人を捕まえてナディアの場所を聞き出すが、使用人は伯爵に脅されているのか口をつぐむ。すると、赤茶色の髪をした侍女が涙を浮かべながらナディアのいる部屋を教えてくれた。


足早に部屋に入り、寝室らしき扉を開けると、俺は一瞬呼吸が止まった。ベッドの上で酷く痩せ細ったナディアがいたのだ。すぐ様ナディアに駆け寄り、呼吸を確認する。


……生きている。


だが、呼吸が弱々しく今にも止まってしまいそうだ。助けてやるなんて偉そうな事を言っておいて、こんな状態になるキッカケを作ってしまったのは俺自身だ。伯爵が異常な事は薄々分かっていたのに。前伯爵に話を先に通せば良かったと後悔が襲ってくる。


「っナディア!!起きろ!!」


ナディアの痩せ細った姿と、情けない自分に思わず涙が浮かぶ。


「ナディア、遅くなってすまない。もう大丈夫だ!!だから目を開けろ!!」


俺の呼び掛けに、ナディアの目蓋が震える。


「ナディア!!目を覚ませ!!」


ナディアが酷く怠そうに目蓋を持ち上げ、虚ろな目で俺を見る。だが、口元には笑みが浮かんでいる。大丈夫だ、まだ笑みを浮かべる元気はあるみたいだ。


ナディアを連れ出そうとすると、やはり伯爵が出てきた。伯爵は、理屈では片付かない。狂人には説得も交渉も不可能だ。感情の赴くまま殴ってしまったのは俺らしくはなかったが、後悔などしない。


ナディアが力を振り絞るようにして女の名前を呼ぶ。きっとあの侍女の事だろう。侍女も連れ出すと約束すると、安心したように目を閉じた。


ゆっくりとナディアの口元が歪んだ笑みに変わる。


こんな環境にいたのだから仕方ないだろう。

これから時間をかけてナディア自身を知っていこう。


好きな食べ物、好きな色、やりたい事、行ってみたい場所。他にも色々知りたい事が沢山ある。


いずれナディアは、俺が前伯爵に蒔いた種に気付くかもしれない。


だが、俺はナディアを放してやれないだろう。



この感情に名前を付けるとしたら何というのだろうか。





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