理性と良識
※誤字、脱字多かったらすみません。
「……煙草が吸いたい」
「何言ってるんですかお嬢様。まだ体調が万全じゃ無いのに駄目ですよ」
あれから、なんとか私は自力で起き上がれるまで回復した。まだベッドの住人で移動も車椅子だが。
公爵様は毎日私の様子を見に来るが、屋敷の人達は、私を監視する様な真似はしない。これが普通なのだろう。今までの環境が異常過ぎたのか、少し落ち着かない。
目が覚めて話せるぐらいまで回復すると、私はいつのまにか公爵様の婚約者の地位に収まっていた。それもそうだろう。なんの関係もない令嬢を保護するという理由だけでは、公爵様の屋敷に留まれない。婚約はお祖父様との間で行われたのだろう。
伯爵家から公爵様に連れて来てもらったジェシカは、伯爵家にいた頃より表情が明るい。私の世話を過保護と言っていいほどやりたがるのは、やはりあの出来事がトラウマにでもなっているのだろう。
「調子はどうだ?」
「……公爵様。今日は三回目ですよ」
「あー……そうだったか?」
この人は暇ではないだろうに、一日に何回も私の様子を見に来る。初めて言葉を交わした時とは印象が違って少し、いや、かなり過保護な一面を見せる。この人もまたトラウマにでもなったのか。
公爵様は頭を掻きながらベッドの側に置いてある椅子に座る。ジェシカは微笑みながらお辞儀をして部屋を出て行ってしまった。
公爵様からはコロンの香りに混じって煙草の匂いがする。やはり煙草の匂いは落ち着く。
「また物欲しそうな顔してるぞ。そんなに煙草が好きなのか?」
「ええ、好きですよ。私にとって、煙草は一種の精神的な調律なのです。公爵様もそうではないのですか?」
「……まあ、分かる気はする。それより、何度も言ったが、畏まらなくていい。別に正式な場所じゃなければいつも通りの話し方でいい。それで怒ったりはしない」
「……はあ。分かった。それじゃあ、いつも通りの話し方をさせてもらうね」
私の話し方については何度もやり取りした。これ以上頑なにしていても、この人は折れないだろう。私が気怠げに話し方を崩すと、公爵様は満足そうな表情を見せる。上手い具合に誘導されている気がするが、悪い気はしない。
「あと名前。婚約者になったんだから、ちゃんと名前で呼べ」
そういえば、まだ公爵様を名前で呼んだことは無い。私は少し悩み込み、試しに公爵様の名前を呼んでみた。
「ルーファス……ルゥ。ルゥの方が可愛いし、どう?」
「……俺は可愛いって歳じゃないんだが。まあ、お前がいいなら構わない」
呆れた様に言っているが、満更でもないような顔をしている。この人のこういった所が少し眩しく見える。
暖かくて、優しくて、少し眩しくて。
何故か少し壊してみたくなる。
私もやはり狂っているのだろう。折角手に入れた暖かな人を壊してみたいなど。勿論、そんな事はしない。私は心の内に秘めた残虐性を自覚して、理性と良識で制御する。
素直にこの暖かな場所に甘える事が出来たら良かったのに。どこまでも私は捻くれてる。
「ごちゃごちゃ考え過ぎだ」
「……え?」
「考えるのは悪い事じゃない。だが、考え過ぎは疲れるだけだぞ」
そう言って私の頭をグシャグシャと撫でる。子供扱いされている気がするが、頭を撫でられるのは嫌いじゃない。確かに考え過ぎは毒になるだけだ。
「それでも考えるなら、元気になったら何処に行きたいとか、何をしたいとかにしろ。その方が有意義だろ?」
「……煙草が吸いたい」
「それ以外でだ。……思い浮かばないなら、俺と一緒に見つけよう」
公爵様……ルゥは優しく私に微笑む。
何処に行きたいか、何をしたいかなんて、あまり考えた事がなかった。急に言われても煙草と本を読むくらいしか思いつかないが、ルゥも一緒に探してくれるなら大丈夫だろう。
今はただ、この穏やかな自由を享受しよう。
煙草が恋しいナディアちゃん
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