13 納得して死にたい
「ご自分のなさった行いでできた子供の養育を放棄するなど貴族の……いいえ、成人男子としての風上にも置けぬ行為であります!」
老人が男に対して厳しい声をかけている。
「俺は生むなって言ったんだよ。跡目争いなんて起こっても困るからさ。堕胎薬用意してくるから待っとけって言ったら、その間に逃げやがって」
「堕胎を安易に考え過ぎでございます!」
男の発言に老人が食ってかかる。
「巷で堕胎薬として使われているものは、あれは言ってしまえば毒です! 母体に著しく負担をかけ弱らせて、子を大きく育てる力を奪わせるというもの。もちろん、飲まされた女子は無事では済みますまい。そんなものを飲まされると聞いたならば、逃げるのは当たり前です!」
老人の発言に対し特に思うこともないのか、男は聞き流している。
「……生意気そうな面だ。こんなガキ、早く死ねばいいんだよ」
男がそれまでずっと無視していたケントの方を見てくる。
「見る人が見ればすぐにお分かりになりましょう」
「もうちょいあれと似たような顔をしてれば、かわいがってやっても良かったのに」
男がケントの目を見て言ってきた。
「おい、ガキ。うまいこと野垂れ死にしてくれよ。俺の前に再び現れて金の無心なんぞしてみろ。俺がお前の息の根を止めてやるからな」
「なんということを……」
老人が嘆息するのも構わず、男は話を切り上げる。それを聞いて、ケントはならばこの男の知らないところでのうのうと生きながらえてやろうと思った。
「あのボス倒した後、解呪の巻物が手に入ったんだ」
「……お手数をおかけして申し訳ありません……」
ケントは貴重なアイテムを使わせたことが心苦しく、謝罪を口にする。
「お互い様だよ。君が犠牲にならなければ、俺が石化されていただろう」
フーゴもケントに対して気にしないようにと声をかける。
「石化厄介だよなあ……他の探索者はどうやって対策してんだろ……」
ユリシーズが呟いている。ケントはこの失態をどうにかして挽回せねばと固く心に決める。
「女の生首を飾って魔除けにする古の伝承! それと関連があるとされる未だ謎に包まれたダンジョン! ダンジョンに飾られる装飾には数多の女神とその眷属の姿が!」
「この謎を解明するため我々はダンジョンの奥へと向かったーー!」
ユリシーズ達が探索を続けていると、誰かの陽気な高らかな声が聞こえてきた。ワーハッハッハと楽しげな笑い声も聞こえてくる。
そして、ユリシーズ達とばったりと出会った。
「やべっ、聞かれた!」
「恥ずかしっ……」
うっかりユリシーズ達に声を聞かれて恥じ入るのは、先ほど見かけた研究者コンビだ。それに護衛役の探索者が付き添っている。
この人達、ひょろく見えるのにこんな奥に来るなんて結構すごいんだな、とユリシーズは思う。
「あれ、さっき君ら見かけた気がする!」
「え! 初見でここまで来たの! 凄くない⁉」
二人はユリシーズと同じような感想をユリシーズ達に対して抱いたらしい。それをそのまま口にする。
「ここまで来ると、他の冒険者と出会うことも少ないんだよ~~」
「わー。よかったら一緒にご飯でも~~」
人懐っこそうな笑顔で気軽に誘われる。




