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10-2

「私が見てきましょう」

 ケントがロープを取り出しながら、そう提案する。

「え! 危なくない⁉」

「まあ、危険はそれなりに……」

 ケントは言いながら、ロープを柱に括りつけ、己の身にも括りつけていく。

「では」

 ケントは淡々と準備を済ませ、さっさと降りていく。ユリシーズ達はそれを見守る。

 ケントがするすると降りていくのは垂直の壁だ。ユリシーズはケントの体に括りつけられたカンテラの灯りに助けられながら、暗闇の先に目を凝らしていく。


「あっ! 壁の一角に扉? なんか入り口みたいなの、ある!」

「はい。見えてます。そこに行きます」

 ユリシーズが声を出すと、ケントも承知していると頷いて横に移動しながら下へと進んでいく。


 様子を見守っていると、どこからかクァークァーと不気味な鳥のような鳴き声が聞こえてきた。

「え……やば……」

 ユリシーズは嫌な予感を覚えながら声の主を探す。先ほどここに来たことのあるらしき冒険者たちが懸垂降下を諦めて撤退した理由がこれか、と思い当たった。



 クアーーーー! と大きな声とともに現れたのは、女の顔をした鳥だった。醜悪に歪んだ人面に、人のような上半身、腕の部分は羽毛に覆われていてその羽を動かしながら旋回している。下半身は腿から下は羽毛に覆われていて、膝から下は鳥のようなかぎ爪のついた鱗模様の足だった。

 そして、大きい。人の1.5倍から2倍はありそうな体躯で迫りくる。


 その人面鳥が向かってくるのは、ユリシーズ達の方ではなくケントの方だった。

「え、えええっ! やばい!」

 ロープを握って手が使えないケントがその怪鳥に対処できるはずもない。ユリシーズは慌てて鞄を探る。

「なんかないか! なんかないか!」

 巻物、杖、カップを手当たり次第に出していく。


 火魔法の杖、これは十分に引き付けられてから避けられた。なおかつ、羽のはためきで火魔法を叩き消していた。クアアアア! と鳴く声が嘲りに聞こえる。

「ウソ~、あいつら賢いの」

 次いで、迅雷の巻物。これは一体には当たったが、他の個体は飛んで交わした。効率がいいとは言えない。

「爆風は……」

 爆風の巻物は仲間には攻撃の作用はしないが、大きな風が起こってしまう。その場合、宙づりになっているケントが風にあおられて大変危険なことになる。これは、使えない。


 あれでもない、これでもない、と考えている内に怪鳥はケントに迫りくる。

 ケントは足で壁を蹴った。宙に身を放り出し、両手を放す。目標としていた場所にいたケントがいなくなって、怪鳥が戸惑う。

 ケントは開いた手で弓を取り出し、矢をつがえる。射られた矢が怪鳥の目を撃ち抜いた。


 クアアアア! と怪鳥が悲鳴をあげながら落ちていった。残った怪鳥が怒りの表情でケントに向かう。鳥が獲物をついばむように、人面が顔を突き出しながらケントを食もうと口を開けて向かってくる。ケントは身をよじりながら、寸でのところで交わす。交わしたというより、ロープが揺られて振り子のようになったため、偶然避けられたのかもしれない。


「! 危ない!」

 フーゴが、ロープの弛みに気づいた。怪鳥の攻撃、ケントの動きに不自然な力が加わり、結び目が徐々にほどけつつあった。フーゴは慌ててロープをつかむ。


 逆さ吊りになったケントと怪鳥の攻防はまだ続いている。

「わあああ! どうにかなれ!」

 ユリシーズがカップを掲げた。効果をまだ知らないカップだ。カップから何か出ることはなかった。

 ユリシーズはクソ! と悔しがりながらカップを下ろそうとした。その時、怪鳥が近くにまで迫ってきていた。

「ん⁉」

 カップを下ろすと、怪鳥の姿が遠ざかる。再びカップを高く掲げると、怪鳥が向かってくる。

「おお!」

 ユリシーズはカップの効果を把握した。今の内にと素早く巻物を出そうとする。その間、ケントが弓矢で怪鳥を射抜いていく。

 怪鳥がケントの方に戻ろうとしたところで、矢の内の一本が怪鳥の目を射抜いた。怪鳥が落ちていく。


「ど、どうにかなった……?」

 怪鳥の脅威は一旦去った。ケントは体勢を元に戻し、再び降下を始め、当初目的とした壁にあった入り口にたどり着いた。



 ケントはその中でレバーのようなものを見つけた。それを、勘の赴くままに下す。

「あ! 階段、出てきた!」

 壁の一角に階段が出現し、灯りも同時に点る。ユリシーズ達はその階段を降りた。ケントもそこに合流する。


「やっぱり危なかったね。ロープで下に降りるの……」

 ユリシーズがそう言うが、ケントはけろっとした顔をしている。

「お前、あのロープほどけそうだったぞ」

「ああ、ロープを支えてくれてましたか。ありがとうございます」

 しれっと礼を言われて、フーゴはなんだか釈然としない。


「お前、俺が見逃してたらとか、思わないの?」

「その時はその時ですよ。それに、あなたはユリシーズ様を守ることを優先されるでしょう。仮に他の冒険者や魔物がユリシーズ様に危害を加えようとしたら、そちらを倒すことを優先してくれるでしょう。だから、安心して降下できたのですよ」

 ケントの言葉にユリシーズとフーゴは変な顔をする。

「ケントはさあ。もっと自分のこと大事にした方がいいよ……」


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