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広めの部屋に入った。
「モンスターハウスだ!」
ユリシーズの声がどこか楽しげに弾んでいる。カミロ達はやばい! と慄いていたのに、ユリシーズが嬉しそうな反応をしているのを見て、ええ……と一歩引いている。
「じゃあ、読むよ! 我が敵に闇を与えよ! 落ちよ、夜帳!」
ユリシーズが高らかに呪文を読み上げる。途端に、魔物達が戸惑ったように動きを止めた。その後、首を左右に動かしている。
「え? どうなった?」
カミロ達が戸惑っている間に、フーゴとケントが動いた。彼らはそれぞれ敵の動きを待たず、自分の攻撃をして魔物達を屠っていく。
「この巻物は魔物の視界を奪う魔法だ。こっちが見えていないから、楽に相手を倒せるはずだよ」
「なるほど!」
ユリシーズの解説を聞いて、カミロは勇んで前に出ていく。トニアもそれに続いた。
「罠が多いから気を付けてね! 後、蛇は視界よりも鼻で獲物を探知するから、この魔法の効果はあまりないよ!」
ユリシーズが声を出して、カミロ達に注意を促す。
「カミロ! 斜め右前方に落とし穴! トニア! すぐ横に丸太の罠がある。それ踏んで!」
トニアには罠を踏めと指示を出す。トニアはすぐさまそれを踏んだ。飛んできた丸太に魔物が巻き込まれる。なるほど、とトニアは丸太を避けつつ、魔物にとどめを刺す。
ユリシーズは主に声を出して、戦闘の補助に務めた。
「ケント! そこから振り返って、弓!」
ケントが弓を引く。カミロの背後にいた魔物に矢が射られる。囲まれつつあったカミロがそれで助かる。ケントはさらに二度三度と弓を引いた。
「ケント、上手いなー。射撃が得意なんだ。目がいいのかな」
ユリシーズが見る限り、ケントは一切罠を踏まない。やはり、よく見えているのだ。
戦闘が終わった。
「うわああ~~~。無事に終わった!」
「まさか乗り切れるなんて……」
初めてのモンスターハウスを乗り切ってカミロ達は疲労感を滲ませながら、感嘆の声を漏らす。
「すっげえ、アイテムの量……」
床に転がるアイテムの数に、カミロは目を見張る。
「なんだか、急にレベルが上がった気がするわ」
トニアも自分に起こった変化にぼんやりとしている。
「そうそう。こういうのがおいしいんだよね。モンスターハウスは。もちろん、自分の手に負えない強敵ばっかり出てくるとさすがに困るけど」
ユリシーズはアイテムを拾いながら、声を弾ませる。
「なんだか、俺は今まで以上にダンジョン探索が楽しくなってきたよ」
「というか、今まで恐る恐るしてきたダンジョン探索とは全く趣が異なるわ」
「ねー。なんか急に楽しくなるタイミングあるよね!」
ユリシーズがカミロ達と盛り上がっている。ケントはそれを遠巻きに眺めた。気づけば、フーゴも同じように遠巻きに彼らを見ていたが、そちらに視線をやることは極力控えた。
ふと、ユリシーズがこっちを向いてくる。その顔にこちらを気遣うような色が見えたので、ケントは微笑みを返した。
あの人は、他者を気遣える人だ。自分がその対象になってはいけない。ケントはそう思っている。
恐らくは、モンスターハウスではしゃぐなど軽率だったかな、自分が護衛対象なのに危険なことを好んでやる姿勢など見せてはいけなかったかな、などとユリシーズは考えているのではないか。ケントはそう推測する。




