6 誰のための試練か
その後もユリシーズの快進撃は続いた。
「あれ?」
ユリシーズは普通に罠を踏んだが、作動しなかった。
「ぎゃう」
虎が察して、一緒に乗ってくれる。無事に罠は作動して丸太が壁から射出される。それをユリシーズと虎は避けて近くにいた魔物が二体巻き込まれる。倒し切れなかった一体の首に剣を突き立て、とどめを刺す。
「やっぱ、子供の体は不便だな! 体重が足りないみたいだ! さっきのは走った勢いで強く押せたから反応したんだ」
などと分析しながら、ダンジョンを進んでいく。
「さっきのと模様が違うカップだ! 違う効果が出るはずだ!」
ユリシーズは新たなアイテムを得て、目をキラキラとさせている。
「ん? 何これ⁉」
ユリシーズはカップに指を入れて驚嘆している。その指がカップの表面から消えて見える。ケントは思わず背筋が伸びた。慌てて、彼の側に行く。
「これ、中が広い!」
ユリシーズがカップから手を出し入れしていた。ユリシーズの手首から下が消えて見える。それがまた現れる。ユリシーズの体に不備はなさそうだと判断して、ケントはほっと息を吐く。
カップはユリシーズの手を仕舞えるほどの大きさには見えないのに、それ以上を飲み込んでいる。
「わあ、収納のカップ。初めて見た……」
トニアが感心した声を出す。
「収納のカップ?」
「物を仕舞えるのよ。でも、似たようなものにただ物を入れられるだけのカップもあって」
「? それは収納のカップとは違うの?」
「収納のカップは中に入れた物を自在に出し入れできるんだけど、外れのカップは入れた物を取り出せなくて、どうしても取り戻したい場合は特殊な巻物を使うか、カップを壊すしかないそうよ」
「へえ~~!」
説明を聞いたユリシーズはさらに目を輝かせる。
「これは、どっちかなあ? なにか失くしても大丈夫なもので試さないとなあ」
「試さないでー。外れてたら、もったいない」
カミロが悲痛な声を出す。
その後も、ユリシーズは特に苦も無くダンジョンを進んでいく。カミロとトニアはそんなユリシーズを危なっかしく思うのか、彼についていく。だが、ほとんどの魔物はユリシーズが虎と協力しながら倒していってるので、カミロ達はついていくだけになっている。
これは、まずい……とケントは思う。
そしてユリシーズが取り逃がした魔物は
「ケント! そっち頼んだ!」
ユリシーズに指示を出されると、ケントは体が動いてしまう。
ケントはユリシーズの護衛だ。ユリシーズの身に危険があってはならないのだ。
ケントは多少危ない目に遭えばユリシーズは引き返してくれると思っていた。だが、ダンジョン経験者のユリシーズには浅い階層の魔物や罠などは脅威ではない。よって、彼自身が危険だとは感じてくれない。
そして、彼が気づいていない脅威はユリシーズの身が本当に危険にさらされてしまうので、ケントは対処せざるを得ない。
あくまで安全が確保された上で、ユリシーズに危険を感じて諦めて欲しい。だが、ダンジョンを曲がりなりにも攻略したことのあるユリシーズにそれを望むのは不可能だった。
気づけば、ケントは引き返すタイミングを見失ってしまった。




